前年度では研究成果をまとめた論文を執筆し、英文誌に投稿した。前年度末にかけて査読への対応を行ったが、受理の通知が年度をまたいで本年度となったため、掲載に必要な費用を科研費より支出するため延長申請を行った。 本年度、Springer Nature社の発行する英文誌「Pediatric Research」から成果論文の受理通知があり、掲載の運びとなった。本論文は、思春期ラットにおける1時間の精巣捻転および24時間の再灌流障害が精巣に与える影響について、精子形成を中心に報告したものである。虚血再灌流群では病理学的な精巣障害の所見および組織学的な精子形成スコア(Johnsen score)の有意に悪化がみられたが、同群の平均Johnsen scoreは8点を超えてお り、精子形成は保たれているという結果であった。一方で、次世代シーケンサーを用いた精巣組織のトランスクリプトーム解析の結果、虚血再灌流群ではアポトーシスおよび酸化ストレスへの応答のみならず、精子形成に関する経路に発現変動がみられた。さらにRT-PCRにより精子関連遺伝子(Hspa2、Shcbp1l、Tex14、Gopc、Bbs4、Ace)の発現解析を行ったところ、虚血再灌流群では減数分裂(Hspa2、Tes14)、先体形成(Gopc)、鞭毛形成(Bbs4)、卵子透明帯との結合(Ace)に関与する遺伝子に有意な発現低下をみとめた。これらの結果から、1時間の精巣捻転を解除してから24時間後のラット精巣では組織学的な精子形成は保たれるが、遺伝子レベルでは精子形成能の低下が生じていることが分かった。 本研究を通して、手術時に精巣温存が可能と判断されるような短時間の精巣捻転であっても、その後の再灌流障害によって遺伝子レベルでの精子形成低下が惹起されている可能性が示唆されたと考える。この遺伝子レベルの精子形成低下の可逆性や、実際の精液所見および妊孕性に与える影響について検証するためには、更に発展的な疾患モデルを用いた研究が必要と思われる。
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