敗血症に代表される全身炎症性疾患には急性期の認知機能障害があることは広く知られている。これまで、炎症に伴う急性期の認知機能障害が動物実験で検討されており、脳マイクログリアの活性化を伴う脳内炎症の影響が報告されている。一方、長期的な認知機能や脳内炎症を評価した報告は無く、病態としては機序も明らかでは無い。この状況に対して、本研究では、実施期間中に高齢動物における長期的な認知機能低下と脳内炎症との関連について、行動実験と炎症性サイトカイン濃度の視点から分析を行った。 高齢ラット(24ヶ月齢前後の雄性SDラット、人間では70歳以上に相当)の敗血症モデルの長期的な認知機能低下と神経炎症との関連の検討を行い、敗血症後に塩化リチウムを腹腔内投与するモデルを作成し、慢性期(1週間後)認知機能の検討と脳内炎症の評価を行った。 予備実験で、高齢ラット敗血症モデルで長期的(1週間後)な認知機能低下及び脳内神経炎症の上昇は確認されていたが、本研究に置いて、塩化リチウム投与は行動実験において敗血症による新奇物体への嗜好性低下を有意に抑制し、また炎症性サイトカイン濃度増加も有意に抑制した (CLP+LiCL群、新奇物体への嗜好性: 70.7%、IL-1β濃度: 9.5 pg/mg、TNF-α濃度: 18.5 pg/mg)。全群を合わせて、新奇物体への嗜好性と海馬サイトカイン濃度の間には有意な負の相関があった (海馬IL-1β濃度: 相関係数 0.42 海馬TNF-α濃度: 相関係数 0.47)。研究期間中、LiCL投与によると考えられる異常行動は生じなかった。 これらの結果は2019年、集中治療医学会において発表を行い、現在内容について論文作成中である。
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