体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation : ECMO)は救急集中治療領域で広く普及している治療法だが、しばしば遭遇する致死的な問題の1つに回路内凝血がある。回路内凝血により人工肺や回路が閉塞すると、緊急で回路交換を行う必要があり生命の危機にさらされる。回路内凝血の発生メカニズムについては、回路内の人工物に接触することによって血小板や凝固因子が活性化し、凝血を引き起こしている可能性が想定されているが、詳しいメカニズムは解明されていない。本研究はECMO回路閉塞のメカニズムを解明し、これを効果的に制御することを目的として実施した。COVID-19の影響により、もともと北海道で実施予定であったブタのARDSモデルを用いた実験は実施不能となり、研究計画を、臨床検体およびデータを用いた手法へと変更した。本年度は心臓血管外科術後患者のデータ解析を実施し、体外循環によって炎症関連物質がどのように変化するのか、また、この変化がどのように予後に影響するのかを検討した。人工心肺を用いた手術において、術前、術中、術後の各ポイントで採血を実施し、DAMPsの一種であるHMGB1、IFNγの刺激で増加するとされているテトラヒドロビオプテリン(BH4)、その酸化型であるジヒドロビオプテリン(BH2)を測定した。人工心肺中にHMGB1およびBH4は上昇し、術後(ICU入室のタイミング)には速やかに低下していた。ポンプ時間と人工呼吸器日数は有意に相関しており、ポンプ中のDAMPs、炎症物質が肺に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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