本研究は熱傷とビタミンD動態変化の関係についての病態解明を目指した。その背景としては、熱傷は骨量減少、耐糖能異常、筋委縮、免疫低下を来たすがその病態生理の全貌は明らかでない。これまでに熱傷患者へのグルタミン投与が感染リスクを減らすことが報告されており、免疫低下に対する治療としての有効性が示唆されている。一方、ビタミンD投与は臨床研究での有効性は示されなかったものの、糖尿病モデルマウスにおいて耐糖能異常を改善させることが報告されている。近年になり、熱傷患者において入院時の血中ビタミンD濃度と入院後の感染症発症率に相関関係が認められたことが報告されている。しかし、熱傷におけるビタミンDとグルタミン、耐糖能異常、免疫低下との関係性は明らかでない。そこで本研究では熱傷面積が20%の熱傷モデルマウスと対照群を作成し、それぞれを治療目的を想定した高用量ビタミンD投与群と通常飼料群の合計4群に分けて、血液および腓腹筋を採取し、代謝物質の変化を調べるべくメタボローム解析を実施した。その結果、高用量ビタミンD投与熱傷群において腓腹筋内のアミノ酸代謝経路およびTCA回路の代謝物質、ATPの合成と分解に関わる代謝物質が増加し、血中のグルタミンおよびアラニン濃度が増加した。本研究結果からは熱傷モデルマウスにおいて高用量ビタミンD投与は腓腹筋でのアミノ酸利用によるTCA回路亢進とATP代謝亢進を来たし、免疫調節および創傷治癒に必要なグルタミンの血中濃度および肝臓における糖新生に必要なアラニンの血中濃度が増加し、免疫調節や耐糖能異常の改善に寄与する可能性が示唆された。
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