研究実績の概要 |
頭部外傷急性期における凝固線溶系障害は脳損傷の重症度や転帰と関連しているが、年齢と凝固線溶系障害の関係に関しては一定の見解は得られていない。研究代表者は、高齢者頭部外傷における凝固線溶系障害の経時変化の特徴を明らかにし、高齢者頭部外傷に対する治療戦略を検討した。2007年4月から2018年12月までの間に、受傷から1時間以内に搬送されたAIS 3以上の重症頭部外傷患者を対象とし、傾向スコアマッチングを用いて高齢者群(年齢≧75歳)と非高齢者群(年齢<75歳)の背景因子(性別、GCS、頭部外傷の病型、各損傷部位AIS、ISS、FFP投与量)を調整した2群を抽出した。病着時と受傷3-6時間後のPT-INR、APTT、Fibrinogen、D-dimerを2群間比較した。1294例の重症頭部外傷患者うち、高齢者群と非高齢者群のそれぞれ324例をマッチさせた。高齢者群は非高齢者群と比較して、有意に病着時のFibrinogenが高く(277mg/dL vs 246mg/dL, p<0.001)、病着時から受傷3-6時間後までのFibrinogen低下量が大きく(-49mg/dL vs -33mg/dL, p=0.02)、病着時のD-dimer (30.7μg/mL vs 19.9μg/mL, p<0.001)、受傷3-6時間後のD-dimer (81.6μg/mL vs 70.7μg/mL, p=0.04)が高かった。以上から、頭部外傷急性期において、高齢者は非高齢者と比較して線溶亢進が強く、急速に凝固因子が消費されることが転帰不良の一因である可能性が示唆された。 以上を、研究代表者は、第44回日本脳神経外傷学会シンポジウムで発表し、2020年に英文紙で報告した(Nakae R, Fujiki Y, Takayama Y, Kanaya T, Igarashi Y, Suzuki G, Naoe Y, Yokobori S. (2020) Age-related Differences in the Time Course of Coagulation and Fibrinolytic Parameters in Patients with Traumatic Brain Injury. Int J Mol Sci. 21(16):E5613.)。
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