研究課題/領域番号 |
19K18376
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
下田 由輝 東北大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (30815444)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳神経外科手術 / 術中機器開発 / 血流動態 / 脳動静脈奇形 / 脳腫瘍 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、超小型超音波血流計を用いた術中の血管識別法の開発である。脳神経外科術中では血管が病変を灌流する異常血管であり、凝固切断が可能か、正常脳組織を灌流し、閉塞により後遺症を生ずるため温存すべきかの判断に難渋することが少なくない。具体的には、H31年度には超小型超音波血流計で測定される波形を模擬モデル実験および理論解析を行い波形解析で特徴量となり得る要素を明らかにし、R2年度に血管吻合パターンの異なる動物実験異常血管網モデルを持ちて検証した後、R3年度に臨床例で独立成分解析法を用いた波形解析を行うことにより dicrotic notch を含めた特徴量を抽出し、特異度の高い識別法を開発することを予定していた。本研究の開始当初は、術中に出現する血管にドップラー血流計を直接あて、ある一定時間その状態を保つことにより、血流速度を計測し、実際3症例で計測を行い、順調であった。しかし、症例数を重ねるにつれて、術前の病変部塞栓術の有無や、術者の腕によってデータの取得が不安定となることが明らかとなってきた。特に後者は問題となっている。ターゲットとしている脳動静脈奇形は、血流の多い病態であり、開頭術中の出血を減らすために、定期手術として開頭摘出術を行う場合、術前に血管内カテーテルを用い、栄養血管を塞栓物質で詰めてしまうことがほとんどである。この場合、最もみたいシャント血流は術中にはほとんどなくなり、観察することができない。 これらの問題を解決するため、術者の煩雑な作業をなくし、より多くのデータを一度に取得できるようにするため、術中に得られる術中インドシアニングリーン蛍光血管造影データを解析することや、術前の栄養血管塞栓術の際に、血管内カテーテルを用いた圧波形データを利用した解析に切り替えることを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数回に渡って、ドップラー血流計(Transonic社)を使用して、AVM手術の術中に脳表に存在する血管にドップラーを当て、血流測定を行った。当初は、アナログデータとしてしか、出力できなかったデータであったが、途中に購入したADコンバーター(タートル工業)を接続することで、デジタルデータとして、出力が可能となった。しかし、数回に渡ってデータの取得を試みたが、いずれの症例も術前に血管内塞栓術を施行したものであり、血流が不十分なためか、明瞭な血流波形を取得することが困難であった。また、計測する血管が細い場合、血流計を当てたまま保つことが、安全上困難であった。そこで、対応策として、次の3つを検討した。1)血流が十分な状態で行う手術、つまり出血などを生じ、血管内塞栓術を待てずに止むなく、開頭手術に踏み切る症例を待つ、2)血管内塞栓術中に、カテーテル先の圧を測定することで、血流速度を計測し、このデータから、どの血管が、①純粋なShunt血流か、もしくは、②毛細血管を含んでいる血管なのかを識別するべく解析をしている。3)より安定して、得られるデータとして術中の蛍光血管造影であるICGのデータを解析することで、血管内の血液の動きを認識し、解析するという手法を考えている。 2)3)については次項で述べる。
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今後の研究の推進方策 |
2)小脳血管芽腫の症例において、血管内カテーテルを使用した腫瘍塞栓術中の抹消動脈における圧波形測定を行なった。AVMのような単純なシャント血流がないため、データの解釈は難しい。しかし、我々がターゲットとしている1.腫瘍へ向かう異常血流、2,正常毛細血管床へ向かう血流、3.1,2が混ざった血流 の圧波形を測定した。すべてで、反射波を反映するNotchが認められた。これは血管芽腫において、純粋なシャント血流がAVMと比較してわかりづらく、今回は純粋なシャント血流を測定できなかったためではないかと考えている。今後は、AVMにおけるPure shunt flowにおいて、同様の測定を行うことで、AVM塞栓治療時に塞栓を行って良い血管なのかどうかの判定する。5症例のデータを集め、解析する予定である。
3)AVMの術中に通常行う脳表インドシアニングリーン造影のデータを解析し、異常血管と正常血管を識別する方法を模索した。その結果、様々の時期の造影剤(濃度も様々となる)が混ざり合う静脈においては、その血流速度を測定することが可能であることがわかってきた。 これらの静脈で血流速度が可能である最大の理由として、AVMから流れ込む血流と毛細血管から流れ込む血流の時期を異なる数種類の造影濃度の血流が流れ込んでおり、模様がつく。この模様がどのくらいのスピードで移動するのか を検討する方法を開発することで、その移動スピードが測れる筋道が見えてきた。しかし、我々のターゲットである異常動脈では、早期に造影剤が到達し、その濃度が一気にPeakに到達するため、造影剤の濃度変化が目視で確認できない。 動脈の血流を測定するために、赤外線カメラによる赤血球の検出、その濃度による模様の検出を考えている。並行して、動物モデルにおいて、シャントモデルを作成し、その動物において、ICGを流すことや、自家蛍光を認識して血流速度、速度変化を計測する方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月26~28日開催予定であったSTROKE2020(横浜市)が新型コロナウイルスの感染拡大のため開催延期となり、参加ができなくなってしまった。 2020年8月23~25日に延期となったため、旅費を次年度に繰り越すこととした。
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