脳深部解剖においては神経核の詳細な形態や正確な線維連絡に関し未解明な部分が多い。また、脳神経外科手術では術野をあらかじめ予測し、近傍に位置する重要神経構造に注意を払うことが必要である。そこで本研究は、ヒト解剖標本をもとに脳深部解剖の三次元モデルを作成し、臨床応用することを目的とした。ヒト基底核~脳幹ホルマリン標本を正中線で左右に分断し、連続断面撮影装置付きミクロトームを使用して50μm厚の矢状断切片を作成しデジタルカメラにて撮影、位置・画質調整を行い、デジタル処理可能な解剖標本画像を得た。まず、医用画像では描出が難しく、第三脳室近傍手術の際損傷に留意する必要があり、近年では電気刺激のターゲットとしても知られるPapez回路に着目した。画像処理ソフトウェアにて解剖標本画像上の乳頭体、脳弓、乳頭体視床路、視床前核のセグメンテーションを行い3次元画像を作成した。解剖標本画像では固定の際に生じた歪みがあるうえ、別個体かつ頭蓋内病変を有するを医用臨床画像にそのまま重ね合わせることはできないが、両者の同一神経構造の3次元データをレンダリング後に位置合わせすることで、乳頭体視床路や視床前核をMRI上に投影することを可能にした。 本研究により、微小解剖標本をもとにして神経回路を3次元化し医用画像に取り込むことで、損傷を回避すべき神経構造の位置が可視化される可能性が示された。将来的には、手術ナビゲーションシステムにおいても3次元モデルを表示・連動させることにより、あらゆる角度からの手術操作シミュレーションが可能になると期待される。
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