研究実績の概要 |
本研究では、近年着目されているエピゲノム機構-特にアクティブエンハンサー-に焦点を当て、悪性脳腫瘍の治療で問題となる化学療法耐性獲得メカニズムの解明、および新規治療法開発を目指した。 化学療法耐性を持つ複数の神経膠芽腫細胞株の検討をした所、RET finger protein (RFP)の発現が有意に高いことが見出された。in vitro/ in vivoの神経膠芽腫モデルを用いてRFPノックダウン(KD)による抗腫瘍効果を評価すると、RFP-KD単独群, RFP-KD+temozolomide (TMZ) 群 (特に後者) で非常に有意な腫瘍増殖抑制効果を認めた。また、他癌種で報告されているように、神経膠芽腫でもcis-regulatory element調整因子であるHDACとRFPが複合体を形成することが確認され、RFP-KDによって広範なアクティブエンハンサー等の変化が起こり、前述の治療効果に繋がるのではないかと推察された。 更なる検討のため、H3K27ac ChIP-seq, RNA-seq解析を実施すると、RFP-KDにより全ゲノム的に相当数のエンハンサー/プロモーター活性の変化および近傍遺伝子発現の変化が起き、活性酸素種産生/アポトーシスの亢進および細胞分裂/DNA 複製/cell cycleの抑制が引き起こされることが明らかとなった (FOXO1, TBP2, PARPBP など)。 またTCGAのデータの検討では、RFP発現の高い神経膠芽腫患者の全生存期間が有意に短いことも示された。 本研究から、RFPをターゲットとした薬剤が新たな神経膠腫の治療法に繋がる可能性が示された。
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