脊索腫は斜台や仙骨に生じる骨破壊性の腫瘍であり、あらゆる集学的治療を行っても根治することは困難な難治性疾患である。現在までに腫瘍細胞の増殖を抑える治療は、複数開発されているが、骨破壊によって生じる脳神経麻痺が患者の日常生活動作に大きく影響するため、骨破壊の機序を解明することは新規治療の開発には必須である。現在までに解明された脊索腫の骨破壊機序はない。まず、マイクロCT撮影の結果、脊索腫による骨破壊部の骨は、非病変部位の骨と比較して、骨内に複数の小孔を認め、やはりその小孔周囲の骨密度は低く、脊索腫において何らかの酸性環境が存在することが推察された。免疫染色では、骨の小孔内に腫瘍細胞を認め、その腫瘍細胞がCathepsin KやMMP-13などのタンパク分解酵素を発現していることが明らかとなった。また、ヒト脊索腫細胞株を用いたin vitroにおける細胞内小器官のpH測定では、chordomaに特徴的な担空胞細胞の小胞がリソソームに類似した酸性の細胞内小器官であることが確認された。以上のことから、腫瘍細胞自体がタンパク分解酵素と酸を分泌し、骨破壊に関与している可能性が示唆された。さらに、ヒト脊索腫検体におけるMMP-13発現強度と脊索腫周囲の軟骨基質との関連性、軟骨基質と臨床経過との関連性を示唆する所見を得た。脊索腫患者から樹立した初代培養細胞及び、既存の脊索腫細胞株のJHC7細胞を、NOD/SCIDマウスの頭蓋冠へ移植した。しかし、非常に増殖の遅い両細胞の頭蓋冠への生着率は低く、安定したモデル樹立は困難であった。そのため仙骨などへの移植や、マトリゲル等へ包埋して移植する方法も検討したが、やはり生着率は低く課題は残った。今後、さらに骨破壊に直接的に寄与する機構を同定し、これらの機序をターゲットとした新たな治療法の開発につなげたい。
|