これまでにマカクサルに到達把握運動課題を行わせ、サルが発揮する把握力が任意の閾値を超えると側坐核に対し一定強度の電気刺激が入力される閉回路側坐核刺激法を確立した。この閉回路側坐核刺激によって、サルは頻繁に把握運動を行うようになり、運動に対する意欲の向上につなげることができた。2021年度はこの閉回路側坐核刺激法が脊髄損傷後の機能回復促進に貢献できるか否かを検証することを当初の目的としていた。新規で2頭のサルの側坐核へ刺激電極、運動野に96ch剣山電極、上肢筋に筋活動記録電極を慢性的に埋め込んだ。まずは、健常時に前述と同様の方法で側坐核を刺激した。その結果、これまでのサルと同様に刺激と連合した運動を頻繁に行うようになった。加えて、サルが発揮する力は刺激時に強くなる傾向があったため、側坐核活性化と運動野の神経活動の因果律を検証するために、刺激に依存した運動野神経細胞の活動が存在するかをstimulus-triggered averagingによる解析によって検証した。その結果、側坐核の刺激そのものによって運動野神経細胞の活動誘発には繋がっていないことが判明した。よって、側坐核刺激時にサルが発揮する力が大きくなる現象は側坐核刺激による運動野の直接的な活動上昇ではなく、意欲の向上による二次的アウトカムであることが示唆された。上記刺激実験の途中から慢性埋め込みした刺激電極から刺激が出力されなくなってしまったため、脊髄損傷モデルへの応用へは至らなかった。上記の実験に加え、側坐核への主要な投射源である腹側中脳への電気刺激による運動野脳活動への影響を検証した。腹側中脳への電気刺激は運動野の活動を誘発するだけでなく、筋活動も誘発することが判明した。この結果から側坐核よりも腹側中脳の活性化は運動パフォーマンス向上に強く寄与する可能性が示唆された。
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