頚動脈狭窄症は脳梗塞のリスクと考えられている.最良の内科的治療をおこなうが,進行性に増悪し,症候を呈する例が少なからず存在する.症候を呈する前に外科的治療が介入することが望ましいが,近年の内科的治療の著しい進歩の前に,外科的治療の有益性については種々の議論がなされているのが現状である.外科的治療に至る例については,そのプラーク性状から,狭窄進行および症候化に関する因子が存在すると考えているが,頚動脈エコーやMRIなどの画像所見や既存の血液生化学的検査だけでは正確な判断が困難である.申請者は,メタボローム解析を利用して,血中の代謝物からプラーク性状を判断したいと考えている.プラーク性状が分かれば,頚動脈狭窄症の進行および症候化の予測が可能になり,バイオマーカーとしての役割を果たすことができる. 2019年4月から2021年3月まで,頚動脈ステント留置術を行った症例を対象として検討してきた.11症例の検体が集積できた.症例の臨床的背景は,男性:女性=8:3,平均年齢74.6才(52―85才),病変部位 左:右=6:5であった.頚動脈エコーでは平均PSV 247cm/s(66-415cm/s),プラークのエコー所見は,calcifiedが3例,echogenicが4例,calcified + echogenicが4例であった.狭窄部のプラークイメージでは,TOF高信号が2例,T1BB高信号が3例,T2BB高信号が6例であった.血液検体は,手術開始前,手術中,手術終了時の3回採取しており,特に手術中の検体については,遠位塞栓防止バルーンの近位側の血液を採取した.血液検体を用いたメタボローム解析では,術前と比べて,術中および術後の検体で,D-Melezitoseの増加がみられた.今回検出されたバイオマーカーはプラーク性状および脳虚血と関連する可能性が示された.
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