本研究の目的は、悪性神経膠腫の増殖・浸潤・血管新生において、腫瘍と血管、免疫細胞(マクロファージ、リンパ球など)の相互作用を解明し、臨床応用により新たな治療戦略を確立することである。悪性神経膠腫は高齢者に発症し、アルツハイマー病をはじめとした認知症の病態背景に関連し (Med Hypotheses. 2010)、腫瘍内に蓄積したアミロイドβが治療標的となる可能性が報告されている(Int J Mol Sci. 2019、Clin Exp Immunol. 2020)。 本研究では2019年から悪性神経膠腫患者から採取した腫瘍組織検体を用いて、免疫染色により脳血管周囲マクロファージが脳腫瘍細胞の増殖・浸潤にどのように関わっているか関連を評価している。共焦点顕微鏡を用いて腫瘍本体と腫瘍周辺の浸潤部組織を用い、腫瘍細胞の浸潤、血管構築と免疫細胞について評価し、VEGFをはじめとした血管新生に関わる蛋白、アミロイドβ蓄積などの脳内環境要因の評価を行った。また、腫瘍細胞培養により血管増殖因子・サイトカインの発現を評価し、マウス脳内腫瘍移植モデルで腫瘍の増大・抑制機序や脳血管反応性評価を行った。 これまでの研究で、脳血管周囲マクロファージが免疫受容体CD36/NADPH oxidase経路により産生する活性酸素種が、悪性神経膠腫の腫瘍細胞に対し殺細胞作用を示す可能性が示唆される。また、脳血管周囲の活性酸素種は脳血管反応性を障害し認知機能を低下させ、アミロイドβの蓄積を促進させる可能性があり、血管新生・免疫機序を介して悪性神経膠腫の増大・浸潤に影響を与えていると考えられる。 この研究によって悪性神経膠腫の増大・浸潤機序が明らかになり、化学放射線療法に耐性例に対する新治療法確立の基盤となることが期待される。また、上記の手法を下垂体腺腫や髄膜腫、転移性脳腫瘍などの脳腫瘍にも応用し研究を進める。
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