EGFRシグナルが活性化した膠芽腫細胞GBM39を用いて、LSD1の選択的阻害剤S2101とLXR作動薬であるLXR-623の作用を比較したところ、両者ともコレステロール取り込みに関与するLDL受容体を分解する機能をもつMYLIP遺伝子の発現と、細胞外へコレステロールを排出させるABCA1遺伝子の発現が誘導された。更に、両者を同時に組み合わせるとそれらの効果が更に強まった。また、細胞内のコレステロールの枯渇を感知し、コレステロール合成を活性化させるSREBF2遺伝子の発現が、LXR-623のみならずLSD1阻害剤でも誘導され、これらの薬剤の組み合わせによりその効果が一層強まることから、LSD1阻害剤は単独でも細胞内のコレステロールを消耗させ、LXR-623と組み合わせるとより強く枯渇させることが分かった。ヒト正常アストロサイトを用いた実験では、LSD1阻害剤によるコレステロール代謝関連遺伝子の発現変化のパターンは概ね膠芽腫細胞と変わらなかった。但し、膠芽腫細胞と比べて正常アストロサイトではコレステロール合成系の遺伝子発現が強く誘導されており、LSD1による細胞内コレステロールの消耗に対してより抵抗性を示す可能性が示唆された。 膠芽腫細胞GBM39の通常培養において、主なコレステロールの供給源であるB27サプリメントを通常培養の10分の1まで減量しても10%程度しか死滅しないが、LSD1阻害剤S2101を使用すると、サプリメントの濃度が薄まるにつれて、細胞が死滅しやすくなることが分かった。同様に、DMEM培地と10%ウシ胎児血清で培養する膠芽腫細胞U87-EGFRvIII においても、血清濃度を薄くするにつれて、LSD1阻害剤により細胞が死滅しやすくなった。現在、LSD1阻害によって認めるこれらの細胞の死滅が、コレステロールやLDLの添加によって救済されるのかを確認している。
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