研究課題
グリオーマは脳の正常組織に浸潤するため、外科的に全摘出ができず再発する。最近、がんの再発や転移の原因としてがん幹細胞の存在が注目されている。私たちは、抗てんかん薬のペランパネルに感受性があるがん幹細胞株を見いだした。さらにこれらの細胞ではGRIA2がダウンレギュレーションしていることに気がついた。本研究では、これらの成果を発展させ、GRIA2サブユニットがAMPA受容体のCaイオン透過性に関わることに着目し、グリオーマ幹細胞の増殖調節に関わる分子メカニズムを解明する。そのためにGRIA2について、転写因子、グリオーマの病態を検証した。ペランパネルを加えた培地でグリオーマ幹細胞を培養すると、4日間で約50%が死滅した。ペランパネル抵抗性細胞および親細胞(3株)からmRNAを抽出し、RNAシーケンス解析(イルミナ社 NovaSeq 6000)を用いて遺伝子発現差異解析をした。グリオーマ幹細胞において、GRIA2の発現は認めなかった。一方で、GRIA3が高い発現量を示した。またGRIAファミリーの変異解析により、GRIA3のアミノ酸配列に点変異を発見した。このアミノ酸残基はGRIAファミリーで保存されているため、Caイオン透過性に関与する可能性が示唆された。さらにペランパネル抵抗性細胞における上流解析により、転写因子であるMEF2AおよびGATA4を見出した。GRIA3がグリオーマ治療の分子標的に成り得る可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに、グリオーマ由来のがん幹細胞において、GRIA3が発現していることは知られていなかった。我々はRNAシーケンス解析を用いて、GRIA3のアミノ酸配列において点変異を発見した。さらに転写因子であるMEF2AおよびGATA4を見出した。
RT-PCR法でGRIA3をクローニングする。シークエンシングし、一次配列を決定する。決定した分子を発現ベクターに挿入する。野生型および変異体GRIA3分子をグリオーマ幹細胞にトランスフェクションし、過剰に発現させる。AMPA3(GRIA3)受容体を介するCaイオン透過性をCaイメージングまたはパッチクランプ法で評価する。転写因子であるMEF2AおよびGATA4をグリオーマ幹細胞にトランスフェクションし、過剰に発現させる。GRIA3の発現上昇をqPCR法で確認する。野生型または変異体GRIA3分子発現グリオーマ幹細胞を免疫不全マウスの脳内に移植する。生存期間と腫瘍のサイズを評価し、変異体GRIA3の発現と予後の関連を調べる。免疫組織化学法を用いて、AMPA3受容体の発現をタンパク質レベルで評価する。
RNAシーケンス解析を用いて、高精度かつ効率の良い遺伝子発現差異解析および変異解析が遂行できた。そのため、予定していた実験を省略することができ、次年度使用額が生じた。消耗品費(培養関連と動物実験)に充当する。
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CI研究
巻: 41 ページ: 87~93