研究課題
グリオーマは強い浸潤能がある。そのため、腫瘍細胞は脳の正常部位に深く染み渡り、外科手術では全摘出できない。さらに化学療法と放射線治療の集学的治療を行っても、治療抵抗性をもつがん幹細胞が増殖をくりかえす。再発の根源であるがん幹細胞をターゲットとした治療法は有効であると考えられる。しかし、血液脳関門があるため、脳に適用できる薬剤は限られている。私たちは、手術で切除されたグリオーマから、がん幹細胞を樹立した。そして、抗てんかん薬のペランパネルにより細胞増殖が抑制されるグリオーマ幹細胞株を見いだした。以上の成果を踏まえて本研究は、ペランパネルはAMPA受容体の非競合的拮抗薬であることから、RNAシーケンス解析(イルミナ社 NovaSeq 6000)で、遺伝子発現量、融合遺伝子、スプライシングバリアント、および点変異を調べた。ペランパネルに感受性を示した4患者由来のがん幹細胞株における、AMPA受容体をコードするGRIA分子の発現量は、GRIA1 (54 TPM) > GRIA3 (19 TPM) > GRIA2 (8 TPM) = GRIA4 (4 TPM)の順位であった。4患者に共通して、GRIA3において、アミノ酸置換の変異(R775G)を発見した。さらに、AMPA受容体の上流解析により、制御因子として脱ユビキチン化酵素のYOD1を見いだした。データベース(TCGA)を用いて解析すると、GRIA3またはYOD1のmRNA発現は、グリオーマ患者における予後不良因子であった。以上の結果は、1) AMPA3受容体がCaイオン透過性に関わること、2) YOD1はAMPA3受容体を制御すること、3) YOD1-AMPA3経路がグリオーマ治療の分子標的に成り得る可能性を示唆する。
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