脊柱靭帯骨化症における静脈血栓塞栓症の発生に関わる因子を調査するため、脊柱靭帯骨化症モデルマウス(以下、ttwマウス)を用いて血液凝固能、血管形態、管腔形成能、血管周囲の間葉系幹細胞(MSC)の分布を評価した。 心臓血を用いた血液凝固能の評価では、8週齢と16週齢のttwマウスで、同齢のコントロールマウスに比べてプロトロンビン時間が有意に短かった。プロトロンビン時間の短縮は血栓症のリスク因子であると報告されている。 血管形態の評価はマウスの下腿筋組織を用いて行った。ttwマウスでは調査した全ての週齢においてコントロールマウスよりも血管壁が薄く、径が小さい血管が多かった。また、大動脈から単離培養した血管内皮細胞を用いた管腔形成能の評価では、血管内皮細胞増殖因子の添加の有無にかかわらず、ttwマウスではコントロールマウスに比べて管腔形成能が高く、血管新生が盛んなことが示唆された。新生血管は径が小さくて血管壁が薄いため脆弱であり、また血管が損傷すると止血のために凝固能が亢進することが知られている。これらのことからttwマウスでは脆弱な新生血管が多く、その損傷が凝固能亢進につながり血栓形成に寄与している可能性が考えられた。 下腿筋組織を用いたMSCの分布の評価では、ttwマウスでコントロールマウスよりMSCマーカーであるCD90陽性細胞が血管周囲に有意に多く存在していた。後縦靭帯骨化症患者では、脊柱靭帯組織の血管周囲にMSCが多く存在しており、そのMSCは骨分化能が高いこと、ttwマウスの靭帯組織では骨化に先立って新生血管が侵入することが報告されている。 以上のことから、ttwマウスでは血管新生が盛んであり、壁の薄い小血管が多く、凝固能が亢進していることから血栓ができやすい状態であることが示唆された。また、血管内皮細胞の高い管腔形成能が骨化の増大に関与している可能性が示された。
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