研究課題/領域番号 |
19K18463
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
清水 孝彬 京都大学, 医学研究科, 助教 (50835395)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 3次元積層造形 / ストロンチウム / チタン合金 / インプラント |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、“3次元積層造形”と“表面化学処理”を組み合わせることで、患者それぞれの骨欠損の状況に適したカスタムメイドであり、かつ骨と強固に結合する新しいチタン合金インプラントを開発することである。R2年度の成果として、まず3次元レーザー積層造形(Selective Laser Melting法: SLM)によって造形したチタン合金インプラントにストロンチウムを化学結合させた表面の詳細な分析を行った。その結果、ストロンチウム処理によってインプラント表面の親水性が向上し前骨芽細胞の接着を促進することを示した。また、疑似体液中で処理したインプラント表面に良好なリン酸カルシウム層を形成したため生体内での骨結合能があることが示唆された。最後に、単純な平板形状のインプラントをウサギ脛骨に埋入し生体内での骨結合能・骨誘導能の評価(in vivo)の結果では、早期(埋め込み後2週間)からインプラントと骨の強固な結合が起こるだけでなく、より長期間の埋入でも骨結合が維持されていることを証明した。以上の研究結果とR1年度の結果を合わせて執筆した論文が査読付き国際誌に掲載された。さらに臨床応用へむけた次段階のステップとして、複雑な形状に造形したインプラントの生体内での骨結合能・骨誘導能の評価を開始した。ウサギ大腿骨に、従来は再建が困難と考えられてきた骨軸方向10 mmの完全骨欠損部位を作成する。3D-CADソフトウェア上で、この骨欠損部位に適合する髄内釘型インプラントを設計し造形した。このインプラントを予備実験として3羽のウサギ大腿骨内に埋入した。いずれも骨欠損部位への適合は良好であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.3次元積層造形によるチタン合金インプラントの作製と表面化学処理: レーザー積層造形機器を用いてチタン合金インプラントを作製し、インプラント表面にストロンチウムを化学結合させる処理方法はR1年度中に確立した。表面の化学的性状および疑似体液中での反応を評価した結果、表面は極めて高い親水性を示し前骨芽細胞の接着に有利であった。また、疑似体液中では早期に表面にリン酸カルシウム層を形成し、生体内での良好な骨結合能を有していることが示唆された。 2.単純な形状のインプラントの生体内での骨結合能・骨誘導能の評価(in vivo): 単純な平板(2×2cm)形状のインプラントを作成し、ウサギ脛骨内に埋入しその骨結合能を評価した。骨結合力をインプラントと骨の界面の引き剥がし強度を測定することにより評価した結果、埋入後2週の早期の段階だけでなく長期埋入期間においても、コントロール群より有意に骨結合力が高かった。また、骨組織切片で骨とインプラントの結合率を定量化した結果、埋入期間に比例して結合率は上昇した。 3.複雑な形状のインプラントの生体内での骨結合能・骨誘導能の評価: 荷重のかかる長管骨での本インプラントの有用性を評価するため、ウサギ大腿骨のモデルで評価を行った。ウサギ大腿骨に、従来は再建が困難と考えられてきた骨軸方向10 mmの完全骨欠損部位を作成した。3D-CADソフトウェア上で、この骨欠損部位に適合する髄内釘型インプラントを設計し、そのデータを基にレーザー積層造形機器で造形した。予備実験として3羽のウサギ大腿骨内に埋入した。いずれも骨欠損部位への適合は良好であった。 上記の研究成果が得られていることから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
R1年およびR2年度の研究成果から、単純な平板形状のインプラントのin vitroおよびin vivoの骨結合能評価が完遂された。R3年度は下記の実験をすすめる。 1.複雑な形状のインプラントの生体内での骨結合能・骨誘導能の評価 荷重のかかる長管骨での本インプラントの有用性を評価するため、ウサギ大腿骨のモデルでの評価を継続する。ウサギ大腿骨に、従来は再建が困難と考えられてきた骨軸方向10 mmの完全骨欠損部位を作成する。3D-CADソフトウェア上で、この骨欠損部位に適合する髄内釘型インプラントを設計し、造形を行った。予備実験として3羽のウサギ大腿骨内に埋入し結果、いずれも欠損部位への適合は良好であった。ゆえにこの形状を用いて引き続き埋入実験を行い、ストロンチウム処理群とコントロール群(表面処理なし)の2群比較を行う。埋入期間は4週・8週、及び12週とし、レントゲン及びCTで骨欠損部インプラント上の新生骨の状態を定量化し比較する。またインプラントの緩み・破損の有無を、コントロール群と比較することで、骨再建能を評価する。 2.関節形状のインプラントの生体内での骨結合能・骨誘導能の評価(in vivo) 臨床応用への最初の足掛かりとして非荷重関節で比較的単純な蝶番関節である肘関節に焦点を当て、ウサギ肘関節骨欠損モデルで評価する。上腕骨及び尺骨髄腔に適合する髄腔内ロッド部分を積層造形し表面処理を施す。蝶番関節部分には既存のチタンインプラントを用い積層造形部位とドッキングさせる。レントゲン及びCTで髄腔内インプラントと骨の界面の状態を評価し、インプラント緩み・破損の有無を、コントロール群(表面処理なし)と比較する。
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