昨年度の研究で末期変形性股関節症(OA)患者滑膜組織における神経成長因子(NGF)の発現と中枢感作関連スコア(CSI score)の間に正の相関関係が認められた。そこで、本年度は末期OA患者の滑膜組織におけるNGF発現細胞集団を同定すべく検討を行った。人工関節置換術時に末期OA患者の滑膜組織を採取後、コラゲナーゼ処理を行い、有核細胞を採取した。ビオチン標識抗CD14抗体とストレプトアビジン標識磁気ビーズを用いてCD14陽性(マクロファージ)分画とCD14陰性(線維芽細胞)分画に分離した。両分画におけるNGFの発現レベルをリアルタイムPCRを用いて検討した結果、CD14陰性分画におけるNGFの発現はCD14陽性分画に比べて有意に高かった(P=0.012)。一方、フローサイトメトリーによる解析の結果、CD14陽性分画はheterogenousな細胞集団より構成されていた。NGFを発現するCD14陽性細胞集団を同定するために、CD14強陽性細胞とCD14弱陽性細胞をセルソーターを用いて分離した。リアルタイムPCRを用いてNGFの発現を検討した結果、CD14強陽性細胞におけるNGFの発現はCD14弱陽性細胞に比して有意に高かった(P=0.008)。このことから、末期OAの滑膜組織における線維芽細胞およびCD14強陽性細胞が産生するNGFが末期OAの中枢感作、疼痛に関与している可能性が示唆された。これらの細胞は疼痛治療標的として有用かもしれない。
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