2021年度は、関節包の形態が肢位によって変化することを明らかにし、Clinical Anatomyに受理された。一般的に輪帯は股関節の支持機構として重要な構造の一つとされる。輪帯は股関節包内面の輪状の線維束とされてきたが、関節包と輪帯は互いに近接した構造であるにも関わらず、その互いの解剖学的関係はよくわかっていなかった。そこで、関節包と輪帯の関係に着目し、関節包内面の関節肢位に応じた形態の変化やその組織学的特徴を明らかにすることとした。東京医科歯科大学に供された解剖学実習体を使用し、生体に近い動きの出来るThiel法で固定した遺体とホルマリン固定遺体を多角的に解析した(肉眼解剖学的解析・マイクロCTによる画像解析・組織学的解析)。Thiel法標本では、股関節伸展に伴い、関節包内面が大腿骨頸部へ向かって関節内腔へ突出した一方で、屈曲により、この突出は軽減した。また、股関節伸展位でホルマリン固定した標本の関節内腔面積は屈曲位で固定した標本よりも狭いことが確認できた。組織学的にも、関節包内面で関節包から独立した輪状の線維束は観察されず、関節包が内腔へ突出した構造が確認された。よって、輪帯は固有の輪状線維束ではなく、股関節伸展による関節包の内腔への突出そのものであると考えられた。すなわち、輪帯は股関節の運動により、結果として生じる構造であることが示唆された。 また、ここまでに取り組んだ関節包研究では密性結合組織領域に着目してきた。関節包・関節周囲筋の間には疎性結合組織領域が必ず存在し、疎性結合組織は関節の病態を考える上で近年着目されている。そこで、関節包前面において、疎性結合組織の広がりも解析した。下前腸骨棘遠位から、大腿直筋深層・小殿筋内側・腸腰筋外側の空間にも広がることがわかり、股関節前面痛の進展に関して考察を加え、本成果はScientific Reportsに受理された。
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