当研究室では、IL1bがヒト滑膜由来間葉系幹細胞(MSC)のin vitroにおける強力な増殖因子として機能することを報告してきた。本研究の目的はその細胞内情報伝達機構を明らかとすることである。本研究は、本学の倫理審査委員会の承認と、患者の同意のもと実施された。ヒト滑膜由来間葉系幹細胞は、人工膝関節置換術の際に廃棄された膝滑膜をコラゲナーゼ処理することにより調製した。細胞増殖の測定はMTT Assayを用いた。細胞内タンパクの局在は免疫細胞染色法(ICC)を、リン酸化タンパクの定量解析はWestern Blot法を用いた。 IL1bによるMSC増殖促進効果は血清の存在下でのみ観察されたことから、IL1b単独では細胞増殖に機能しないが、血清中に存在する他の増殖因子の作用を増強する働きがあると考えられた。この仮説を検証するためにMSC増殖に促進的に機能することが既に示されている細胞内Erk1/2のリン酸化を検証したところ、血清刺激によりErk1/2のリン酸化は早期(5~10分)に一過的に観察されるが、IL1bはその時間を倍以上(5~30分)に延長させることが明らかとなった。この現象はMSC特異的であり、他の細胞株(HEK293FT等)においては、刺激後早期の一過的なリン酸化のみ観察された。MSCにおいて観察される遅延型Erk1/2リン酸化の分子機序を明らかとする目的で、ICCによるIL1受容体(CD121a)の局在解析を行ったところ、MSCではCD121aは細胞膜ではなく主に細胞質に局在することが明らかとなった。 以上の結果から、IL1bが血清中に存在する増殖因子の強力な補助因子として機能する機序として、細胞質におけるレセプターとリガンドの相互作用による新規の遅延型情報伝達様式の存在が示唆された。
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