研究課題/領域番号 |
19K18495
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
出田 宏和 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (00838534)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / カーボンナノマテリアル / 骨粗鬆症 |
研究実績の概要 |
我々はカーボンナノホーン(CNH)を暴露したMC3T3-E1マウス前骨芽細胞で骨芽細胞の分化マーカー遺伝子の発現が増加する現象を捉えた。この細胞分化誘導には何らかのレセプターを介していると予想し、このレセプターを介する新たな骨芽細胞を標的とする骨形成促進薬の開発を目的としている。 令和2年度は前年の日本整形外科学会基礎学術集会で報告したCNHによる骨芽細胞の分化マーカー遺伝子発現促進のメカニズム解明に着手した。CNHがMC3T3-E1細胞のレセプターに直接作用するとすれば細胞膜にトラップされるCNHが観察されるという仮説の下、CNHを暴露したMC3T3-E1細胞を透過型顕微鏡で観察した。すると細胞膜にトラップされたCNHはほとんど認めなかった。しかし細胞膜と接しない場所に膜のようなもので包まれたCNHを観察できた。この形状はいわゆる石灰化小胞と類似ており、CNHがもともとウニ状であるだけにリン酸カルシウムの結晶化の初期状態と同様の形状であった。CNHによる骨芽細胞の分化マーカー遺伝子の発現増加は、CNHによるレセプターを経由した刺激によるものと想定していたが、本実験からはCNHが石灰化小胞の類似形状となって放出されることによる促進効果である可能性が高くなった。 またMC3T3-E1細胞を使った実験の再現性の不安定性についての研究も大きな進展が見られた。MC3T3-E1細胞は培地としてαMEMが推奨されている一方で、初代培養の骨芽細胞の培養ではαMEMあるいはDMEMを使用する。この2種類の培地でMC3T3-E1細胞を培養すると、DMEMではアスコルビン酸が必須だったが、αMEMではアスコルビン酸のない状態でも細胞が増殖した。通常のαMEMはアスコルビン酸が加えられているが、このアスコルビン酸が水溶液中では不安定であり、この不安定性が再現性の問題を起こしている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の実験結果は初期の仮説を否定するものである。ナノマテリアルの細胞膜上のレセプターに対する直接刺激による骨芽細胞の分化促進効果であれば、そのレセプターをターゲットにした骨形成促進剤の開発へと進めたが、CNHが石灰化小胞のように分泌され、その結果として分化マーカーの増加が起こっているのであれば、この石灰化様小胞と骨芽細胞の関係を明らかにしなければならない。しかし、少なくとも骨芽細胞の細胞外に存在する外的因子による刺激で分化マーカーの上昇が誘発されているのであれば、その考え方は同じであり、石灰化様小胞と骨芽細胞の膜レセプターの関係を明らかにすればよく、その対象がCNHのような固形物からCNHを包んだ生体由来分子となった分だけ、今後の研究は進めやすくなったと考えている。 また、MC3T3-E1細胞の再現性についての新たな知見はこれから行う実験の再現性を担保する。今回明らかになったことは、アスコルビン酸を含まないαMEM培地でMC3T3-E1細胞を培養すると、比較的安定した実験の再現性が得られたことだった。一方で、アスコルビン酸がない環境でのMC3T3-E1細胞の振る舞いが果たして生体内での骨芽細胞の骨形成のメカニズムを反映しているかどうかという問題が生じる。しかし、本研究の目的から見ると、再現性の良い結果が得られることが最優先であり、その条件にたどり着けた意義は大きい。この条件が必ずしも生体での骨芽細胞の骨形成を反映していなくても、この条件におけるCNHによる骨芽細胞の分化促進は間違いなく、生体内の骨芽細胞に対しても何らかの生理作用をすると考えられ、最終年度の研究の基盤を支えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は以下の項目を同時に進行して研究を推進する。 ・石灰化小胞様CNHの回収方法を検討した上で、その暴露前後でのMC3T3-E1細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで測定し、レセプター遺伝子の同定とその検証を行う。検証により確定した遺伝子のインヒビターなどが存在していれば、そのインヒビターによる骨形成への影響を明らかにする。もし、インヒビターが存在しなければ、化合物ライブラリーを用いてインヒビターの探索を行っていく。 ・MC3T3-E1細胞の培養をαMEMとDMEMのどちらで培養した方がより生体に近い条件での骨形成メカニズムを反映したものになるのかを検証する。この研究は骨研究にMC3T3-E1細胞が非常に多く使われてきている歴史から考えると、非常に重要な検証となる。もし、DMEMで培養した時のMC3T3-E1細胞の骨形成メカニズムが生体と近いとなると、これまでのin vitroのデータの見直しが必要になるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍となり、出張による学会発表ができなくなったことや、本学でもコロナの緊急事態宣言などによって実験ができる期間が短くなり、それに伴って実験を遂行するための消耗品等の購入が予定よりも少なくなったことが理由としてあげられる。また外注でのマイクロアレイ分析を予定していたが、ターゲットにすべき細胞への刺激条件の見直しがあったため、高額なマイクロアレイ分析を行えなかった。令和3年度は、石灰化小胞化したCNHの暴露前後でのマイクロアレイ分析を実施する予定であり、繰り越した助成金と合わせて、外注分析を依頼する。これによってより詳細な遺伝子群の特定が可能になると考えている。
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