研究実績の概要 |
高齢者の腰痛症例60例(男性15例、女性45例)を対象として、本歩行解析を実施した。平均年齢は69.3±8.6歳であった。歩行負荷は、直線10mと半円2.5mで1周約25mのオーバル型コースを用いて疼痛により継続困難となるまで平地連続歩行を行った。三次元動作解析システムはVICON MX system (VICON社, Oxford, UK)を用いて脊柱骨盤角度の変化を解析した。脊椎と骨盤の冠状面の歩行による動的な変化は生じなかった。一方で、矢状面では連続歩行の結果、脊椎の前傾と骨盤の前傾が有意に進行した。特に、脊椎を胸椎と腰椎のセグメントに分けて計測すると胸椎の前傾が進行し、腰椎では変化がなかった。 続いて、歩行時の脊椎矢状面バランスの変化に関連する要素として、体幹筋群の脂肪変性との関連を評価した。MRIを同一条件で撮影できた28例を対象とした。体幹筋の脂肪浸潤は筋の質的評価としてMRI横断像でL1/2高位とL4/5高位の多裂筋、脊柱起立筋、L4/5高位の大腰筋の筋断面積に対する筋内の脂肪断面積の割合をImageJを用いて算出した。結果は、歩行中の脊椎前傾の進行と脊柱起立筋の脂肪浸潤とで有意な関連が示された。また脊柱変形による腰痛症に対して手術をおこなった症例の脊椎骨盤矢状面バランスの変化と矯正術後のProximal junctional kyphosis(PJK)発生との関連を評価した。術前に三次元歩行動作解析を評価した後に変形矯正手術を行い術後1年以上経過観察可能であった27例を対象とした。PJK発生群では歩行最終周回の胸椎矢状面の前傾が有意に大きい結果となった. 本研究での三次元歩行動作解析では、従来の単純X線でのアライメント計測だけでは評価できない高齢者腰痛症の歩行バランス障害に対して、歩行時にバランスを保とうとするための代償の働きをダイナミックに評価できた。
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