研究課題/領域番号 |
19K18559
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
北川 孝一 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 助教 (00822884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | T細胞 / 癌免疫療法 / 免疫チェックポイント阻害薬 / 経口癌ワクチン / ビフィズス菌 / WT1 / 尿路上皮癌 |
研究実績の概要 |
当該年度は、尿路上皮癌に対するWT1発現ビフィズス菌と免疫チェックポイント阻害薬との併用療法について、マウス尿路上皮癌細胞MBT-2 を皮下移植したC3H/Heマウスを用いて以下の検討を行った。 当該担癌マウスに対しWT1発現ビフィズス菌を経口投与し、さらに免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体の腹腔内投与を併用した結果、投与後には腫瘍内に浸潤するCD4T細胞、CD8T細胞、中でもCD107a陽性CD8T細胞が増加していたことから、当該併用投与が腫瘍浸潤リンパ球を誘導し、抗腫瘍効果を発揮することが示唆された。加えて、当該併用療法により腫瘍内の制御性T細胞が減少していたことから、腫瘍内の免疫抑制状態を阻止していたことが示唆された。また、抗CD4抗体及び抗CD8抗体を使用したDepletion試験の結果、CD4T細胞及びCD8T細胞の両者が当該治療法の抗腫瘍効果に必要であることが明らかとなり、中でも特にCD4T細胞の働きが重要であることが示された。 さらに、臨床的側面を踏まえて、抗PD-1抗体療法耐性の上記担癌マウスモデルを作成しWT1発現ビフィズス菌を経口投与した結果、抗PD-1療法耐性獲得後の治療においては、抗PD-1抗体を中止したWT1発現ビフィズス菌の単独療法が最も腫瘍の増殖を抑制していた。さらには、当該単独療法により腫瘍内の制御性T細胞の分布も減少していたことから、当該WT1発現ビフィズス菌は抗PD-1抗体治療耐性獲得機序の一つである制御性T細胞の増加を阻止することが示唆された。 以上の結果から、WT1発現ビフィズス菌が抗腫瘍効果を発揮するメカニズムについて、特にT細胞や腫瘍浸潤性T細胞の観点から明らかにし、臨床試験を見据えた免疫チェックポイント阻害薬耐性モデルにおいても、その治療効果を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては主に動物実験を行い、そこから得られたサンプルの解析により研究を遂行したが、当初計画通りの進捗であった。また新規担癌マウスモデルの作成についても、これまでの知見を応用し順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、WT1発現ビフィズス菌の経口投与による、免疫応答の開始点である腸管免疫系の活性化効果について、投与後の腸管サンプルや免疫組織のサンプルを用いて検討を行う。特に腸管パイエル板や腸間膜リンパ節などの粘膜免疫組織がその役割を担っていると考えられ、これらの組織について免疫学的、および組織学的に解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度については既に所有する機材・試薬の流用により一部研究を遂行することができたため、本助成金については当初予定よりも実支出額が減少することとなり次年度使用額が生じた。翌年度についても当初計画に即した実験を行う計画であるが、生じた次年度使用額および翌年度分助成金と合わせてより充実した研究を遂行することが可能である。
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