本研究の背景:スニチニブに対する治療抵抗性獲得は腎癌治療における大きな障害であり、その機序や新規治療戦略の解明が極めて重要と考えられる。現在、スニチニブ抵抗性腎癌の治療にはエベロリムス・テムシロリムス等のmTOR阻害剤やPD-1抗体薬であるニボルマブが相次いで実用化されている。特にニボルマブは免疫チェックポイント分子PD-1を標的とした新たなコンセプトをもつ治療薬であるが前臨床試験(CheckMate 025)では奏功率25%程度であり十分な治療効果とは言えない。 方法:以前に確立したスニチニブ抵抗性腎癌臨床検体のmiRNA発現プロファイルからBRD4を起点としたmiRNAの選別を行った。さらにこれらmiRNAについて当科の「腎癌miRNA発現プロファイル」と統合して標的分子の探索を行った。 結果:種々の癌研究で注目されるブロモドメイン蛋白、特にBRD4に着目した。TCGAデータベース解析の結果、腎淡明細胞癌患者におけるBRD4の高発現群は予後不良であった。 In vitroおける細胞機能解析ではJQ1の投与によりSU-R-786-oを含めた複数の腎癌細胞株で、アポトーシスの誘導、細胞周期停止を介した増殖能の抑制、及び遊走・浸潤能の抑制が認められた。786-O細胞株を用いたゼノグラフト実験では、BRD4阻害薬であるJQ1を投与した群では、腫瘍増殖の著明な抑制が認められた。現在、クロマチン免疫沈降を行いシーケンスによるBRD4の標的遺伝子を探索したところ、予後に関わる複数の遺伝子が制御されており、特にSCG5、SPOCD1、RGS19、ARHGAP22は独立した予後予測因子となる可能性が示唆された。 結論:BRD4の制御はスニチニブ感受性および耐性腎癌治療における有望なアプローチとなる可能性が示唆された。またBRD4により制御される遺伝子は、新たな治療標的及び予後予測マーカーとなる可能性が示された。
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