研究実績の概要 |
進行性膀胱癌に対する治療法は、シスプラチンに対する耐性が重要な問題である。そこで、我々は、シスプラチン耐性を克服できるような新規治療法の開発を目指して研究を行ってきた。 膀胱癌細胞において、ゲノム安定性の制御は、主にDNA損傷チェックポイント機構に依存している。さらに、DNA修復にかかわるチェックポイント経路の中でも特に、ataxia telangiectasia mutant and Rad3-related(ATR)- checkpoint kinase 1 (CHK1)経路を抑制することで、抗がん剤の作用が膀胱癌細胞において増強されることに着目した研究を行った。シスプラチン耐性にもDNA損傷応答が関与しており、ATR-CHK1経路はその制御において重要な役割を担うと考えた。ATR阻害薬が、シスプラチン耐性を獲得した膀胱癌細胞に与える抗腫瘍効果を検討するとともに、その分子生物学的メカニズムを検証した。 まず、当研究室で保有する膀胱癌培養株J82, T24, UMUC3の各親株・および我々が樹立した各シスプラチン耐性株に対して、シスプラチン単剤投与を行い、耐性メカニズムの探求を行った。親株と耐性株ではシスプラチン投与後にcell cycleに関わるタンパク発現の変化を認めたが、ATR阻害薬の併用投与を行うことで、それらの変化が軽減しシスプラチン耐性が克服され、さらにはアポトーシスが誘導されることを証明した。 昨年からはPARP阻害薬を用いた実験も行っており、膀胱癌細胞のDNA一本鎖切断の修復を阻害することでATR-CHK1経路に与える分子細胞学的な効果を検証した。 残念なことに、今年7月末で申請者が異動となり本研究の継続は困難となったが、今後は研究結果をもとに学会・論文発表を行う予定である。また、今後研究に復帰した際には、本研究をさらに深化させていく予定である。
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