研究課題
腫瘍組織内の血管は正常血管と異なり、脆弱かつ不規則に走行し血流が乏しい。それ故、腫瘍組織は低酸素・低栄養といった、がん微小環境と呼ばれる特殊な環境を形成している。この環境下に存在する腫瘍関連マクロファージは、抗炎症型となり腫瘍の増殖・転移を促進し、がん患者の生命予後を悪化させる大きな要因となっている。申請者らはこれまでに、プロリル水酸化酵素(PHD阻害薬)を用いて腫瘍環境を改善し、腫瘍増殖を抑制することを見出した。その際に腫瘍内マクロファージにおける、がん細胞への貪食活性が上昇していることを明らかとした。しかし、PHD阻害薬により活性化したマクロファージが、抗腫瘍効果の強い細胞障害性リンパ球など、他の免疫細胞を活性化するか否かについては明らかでない。本研究では今までの研究成果を踏まえ、PHD阻害薬による腫瘍環境の改善、マクロファージの活性化が、腫瘍増殖をいかに抑制するか詳細な機序を解明することを目的としている。本研究のように薬剤で全身性にHIFを上昇させ、がん細胞と免疫細胞の競合を包括的に検討する論文はほとんどない。本研究により、腫瘍内で貪食が活性化した腫瘍関連マクロファージによって、腫瘍増殖を抑制する詳細な機序が明らかにできれば、PHD阻害薬によるマクロファージの貪食活性を基盤とした新たな免疫療法が開拓できる。また、本研究PHD阻害薬として、慢性腎不全患者の貧血改善治療薬として近年上市されたRoxadustatなどを使用しており、本研究でRoxadustatの免疫への影響を解明することは今後Roxadustatを内服する可能性のある透析や移植患者など、腎不全患者への薬剤の影響を評価するうえで重要と考える。
3: やや遅れている
世界的なCOVID-19感染によりマウス実験が困難となっているため。
現在までにPHD阻害薬としてRoxadustatを用いて腫瘍血管の正常化、腫瘍環境の改善を明らかにしてきたが今後はPHD阻害薬としてRoxadustat以外の薬剤(Daprodustat, Vadadustatなど)も用い、各々のPHD阻害薬で効果に差があるかを明らかにする。
実験の進捗状況による影響により次年度使用額が生じた。次年度はCOVID-19感染の影響で停滞していたマウス実験を再開するため、マウス購入費などに使用する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Journal of Pharmacological Sciences
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iScience
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