研究実績の概要 |
本研究は、ハイスループットな新規RNA detection systemを用いて、腎がん組織におけるlncRNAの臨床的意義を検討し、さらに細胞内局在を定量的に可視化することでlncRNAの働きを解明する事を目的としている。まずは分子標的治療の先駆的な立場である腎がんにおいて、最新のRNA detection systemであるquantitative in situ hybridization chain reaction (qHCR)が実際にlong non-coding RNA (lncRNA)を同定できることを確認した。計画1に基づき、当教室内に保存されていた腎がんの新鮮凍結標本のうち107例を抽出し、16種類のlncRNAの発現を確かめ、再発、癌死などの腎がん予後との関連を示すことを目標とした。当初の計画ではlncRNA は9種類としていたが、systematic reviewなど文献検索を追加し、public databaseも活用することで、腎がん予後との関わりが予想されるlncRNAを新たに7種類追加することとした。 qHCRは、probe(標的分子毎に通常10-20 probe)に50塩基程度の鋳型を採用し、ターゲットのmRNAに結合したのちにhairpinが連なることで標識が可能となる。4日間で1クールとなるプロトコールを採用し実際にqHCRを進めたところ、16種類全てでlncRNAの同定は可能であった。現時点で83例を11種類、合計913検体でqHCRを行うことに成功している。本研究の目的の一つであった従来のISH法と比較した低コスト化、またハイスループットな研究手法としての妥当性は証明されたといえよう。現時点で得られた結果について統計学的に予後解析を行うと、NEAT1, HOTAIR, TUG1, DLEU2, MALAT1, FILNC, PVT1, H19, GAS5, UCA1, CDKN2B-AS1のうち、HOTAIR, TUG1, FILNC1, PVT1, GAS5, CDKN2B-AS1の6種類は高発現の群の方が低発現の群より有意に再発率が高かった。癌特異死亡率に関しては、GAS5のみが高発現群で悪い結果となった(p=0.031)。
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次年度使用額が生じた理由 |
qHCRに必要な物品としては、各lncRNAに対応するprobe、probeに連なって標識を可能とするhairpin、そのほかprobe hybridization buffer, probe wash buffer, amplification bufferなどの各種buffer、20xSSCT、protease Kなどの各種試薬など多岐にわたる。今年度は上記薬品等は当研究室内にあるものを中心として使用した。 次年度は本研究費でまかなう必要があり、かつ計画2におけるexpansion microscopyも併用する予定である。国際学会への参加も検討しており、今年度と比較して次年度は必要経費が膨れ上がると予想される。
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