研究実績の概要 |
前立腺癌患者では変異型ETV1のタンパク質発現が亢進し、細胞の癌化へと導く。しかし、ETV1のタンパク質量の制御機構は未解明のままである。申請者は、CUL3/SPOPユビキチンE3複合体の基質タンパク質探索の中で、ETV1がその候補分子である事を突き止めた。本研究では、CUL3/SPOP複合体によるETV1の詳細な分解制御機構を解明し、当該複合体を標的とした変異型ETV1の分解促進剤を導出する。 SPOPの生理機能の解析を進めた結果、SPOPがAR/TOP2A依存的なDNA損傷修復に必須である事を明らかにし、2020年3月論文投稿した。その研究を発展させるため、2020年7月よりシアトルのFred Hutchinson Cancer Research Center, Peter Nelson labへ赴任し、前立腺癌のドライバー遺伝子変異について最先端の研究を経験した。その中でSPOP変異のみならず、ERG, ETV1, CHD1, TMPRESS1, FOXA1等様々な遺伝子が前立腺癌の発癌・増悪に関与していることを学んだ。また、アジア人と欧米人の前立腺癌の遺伝子多型の相違は、注目すべきテーマであると感じた。 海外における研究滞在の経験・実績を踏まえ、日本人と欧米人の遺伝子変異を詳細に比較することで前立腺癌の耐性化の機序を明らかにできると考えた。日本では前立腺癌の体細胞変異を解析可能なデータベースが存在しないことから、新規のデータベース作成は急務である。そこで、愛媛大学として他施設共同研究に参加し日本のデータベースをまとめるとともに、Fred Hutchinson Cancer Centerと連携を取り日本人と欧米人の前立腺癌遺伝子変異を比較し、前立腺癌の増悪・薬剤耐性に関わるドライバー遺伝子を網羅的に解析し、今後治療マーカーの同定や治療薬の導出に繋げたい。
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