研究実績の概要 |
2020年前立腺癌患者の10-15%と最も多くのmutationが報告されたSPOP遺伝子に着目し、研究を遂行した。SPOP変異(特にSPOPF133V変異)ではTOP2Aの蓄積を介してゲノム不安定性を誘導し前立腺癌を増悪させることを見出した。さらにSPOP変異前立腺癌患者に対して、TOP2阻害薬やPARP阻害薬が有効である可能性を明らかにした(Watanabe et.al., Mol. Biol. Cell, 2020) 。SPOP変異とTMPRSS2-ERG融合遺伝子は相互排他的であり、AR依存的に異なる経路で前立腺癌の発癌・増殖に寄与すると考えられている。TMPRSS2-ERG融合遺伝子が、TOP2B-AR複合体を介したゲノム不安定性によって形成されるのに対し、SPOP変異はTOPAを介してゲノム不安定性に関連していることを示す重要なデータとなった。ERG蛋白やETV蛋白をSPOPが直接制御しているというエビデンスは得られなかった。 2020年、Fred Hutchinson Cancer Research Center Peter Nelson labに招聘され、前立腺癌PDXマウスを利用した遺伝子変異検索を行い、ドライバー遺伝子の検索に加わった。 2021年帰国後は、日本人と欧米人の前立腺癌ゲノムの比較研究を行うため、日本人前立腺癌患者ゲノムプロファイリングを推進している。 また、TMPRSS2-ERG融合遺伝子に着目し、神経内分泌分化前立腺癌ではERG発現消失が診断マーカーとなる可能性を2021年前立腺シンポジウムにて報告した。現在、症例数を増やして検証を行なっている。今後はシングルセル解析を導入し、神経内分泌前立腺癌の病態解明を目指していく予定である。
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