研究課題/領域番号 |
19K18619
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
伊藤 淳 東北医科薬科大学, 医学部, 講師 (80466557)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CTC / PD-L1 / 腎細胞がん / 尿路上皮がん / 前立腺がん |
研究実績の概要 |
ここ数年でがん治療は著しい変化を遂げているが、腫瘍の不均一性によりほとんどすべてのがん種は全身的治療に対して耐性を獲得する。これに対し、遺伝子型の解析により腫瘍を分類し治療戦略を構築することが試みられてきたが、腫瘍組織からは断片的情報しか得られず、また多くの場合遺伝子の採取自体が困難であった。これらの問題に対応するため、病状進行のさまざまな時期に迅速かつ非侵襲的に採取できるバイオマーカーとして末梢循環がん細胞(CTC)を採取するリキッドバイオプシーにわれわれは注目した。 2016年にGogoiらにより、CTCを正常血球細胞との変形能の違いに着目して微小流路を用いて捕捉する新たな方法(Microfluidics法)が報告された。56320個並んだ微小流路に血液を流すところからCTCの捕捉までをすべて自動で行うため、高い感度(94%)と特異度(100%)を実現した手法である。また、上皮間葉転換(EMT:Epithelial-to-Mesenchymal transition)を起こしたCTCも捕捉可能であるほか、滑らかな流路で捕捉するためCTCがintactな状態で捕捉でき、質的評価も可能という特徴がある。 Microfluidics法の国内唯一の検査機関である日本遺伝子研究所との共同研究は現在も継続して行っており、前立腺がん・腎細胞がん・尿路上皮がんでのCTC捕捉を行っている。またそれぞれのがん症例の蓄積、ならびに予後調査も継続して行っている。CTC表面マーカー(PD-L1など)も今後の治療戦略として重要と考えており、これらのデータを蓄積し、CTCやその表面抗原がバイオマーカー足りうるか検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 腎細胞がん、尿路上皮がん、前立腺がんでのCTC捕捉:同意の得られた症例から、治療前後やフォローアップ期間中にCTCを定期的に採取している。ほぼ全例でCTCが1個以上捕捉され、そのデータを蓄積している。またPD-L1などの表面抗原も確認している。病理学的データは随時蓄積し、再発・転移の出現がないか個々の症例をフォローアップ、再発や転移、あるいは治療薬の変更など、イベント発生時にはCTCの測定を行っている。 2. CTCのDNA・cfDNAの解析により予後予測因子としての臨床応用を探る:腎細胞がん、尿路上皮がん、前立腺がんにおける、各治療ステージ(手術前後、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬使用前後)においてCTCやcfDNAの表面抗原やゲノム異常を網羅的に調査する予定である。現在は各症例のCTCを捕捉した際にcfDNAを蓄積しているのみである。 3. Microfluidics法を含めた横断的なゲノム分析:生検組織、摘出標本、CTC、cfDNAにおけるゲノム異常を横断的に解析し、診断時に利用できるノモグラムが作成できるか検討する予定である。これにより正確な予後予測を行うことができれば、現在は認められていない再発高リスク症例に対する分子標的薬の予防的投与が可能となりうるうえ、さまざま上市されている薬剤の適切利用にもつながる可能性がある。生検組織や標本組織は患者の同意を得たうえで保存しており、これらのデータも現在蓄積中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も症例の集積ならびにデータの蓄積を行い、治療効果予測のバイオマーカー、あるいは予後予測のノモグラム作成が可能かを検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1~3月期における複数の学会がCOVID-19により中止・延期となったため。またCTC検体の測定症例数が当初予定より少なく、その未使用分が生じた。 延期となった学会に関しては2020年度の開催が予定されており、2020年度は旅費が増加する可能性がある。またCTC測定も予定通り推移すれば、その測定費として使用する予定である。
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