近年のがん治療において、腫瘍の不均一性とその実態把握が重要視されている。すなわち、ほとんどすべての癌腫において、その不均一性のために治療に対する耐性を獲得する。耐性を獲得した癌腫に対してすべての病変から組織生検を行うことは、実臨床においては不可能に近い。この問題に対応するため、病状進行のさまざまな時期に迅速かつ非侵襲的に採取できるバイオマーカーとして末梢循環がん細胞(CTC)を採取するリキッドバイオプシーに注目が集まっている。2016年にGogoiらにより報告された、microfluidics法によるCTC捕捉法は、高い感度(94%)と特異度(100%)を有し、また上皮間葉転換(EMT:Epithelial-to-Mesenchymal transition)を起こしたCTCを捕捉することが可能である。捕捉したCTCはviableな状態を保っているため、質的診断が行えることも特徴である。 この特徴を生かし、転移を生じうる癌腫の特徴を、捕捉したCTCを用いてとらえることができないかに焦点をあてて研究を推進している。Microfluidics法によるCTC捕捉を行っている日本遺伝子研究所との共同研究を継続し、2022年度は進行前立腺癌におけるCTCの役割を明らかにする手掛かりとなる論文を投稿した。この中では転移性ホルモン感受性前立腺癌患者を登録し観察した。Microfluidics法でCTCのクラスターを認めた患者は全体の53%存在し、この患者はそうでない患者と比較して有意に予後(progression free survival)が不良であることを示した。今後は、これらのコホートの観察期間をさらに長く、またより大規模な患者群で検討を重ねていく予定である。
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