研究課題/領域番号 |
19K18623
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
倉升 三幸 (北岡三幸) 東京医科大学, 医学部, 助手 (70468643)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 精巣 / アルコール / ニコチン |
研究実績の概要 |
男性不妊が増加している原因として生活環境中に存在する化学物質の影響による精子形成障害が注目されている。アルコールとニコチンは生活習慣病を悪化させる危険因子であり、生殖毒性との関連性が検討されてきたが、同時曝露による精巣内微細環境の変化や精子形成障害の機序についての詳細な報告はいまだない。2019年度においては、同時曝露における精巣内微細環境の変化を組織学的および分子学的解析を用いて検討した。4週齢のDBA/2系マウスを用い、①正常群、②アルコール群、③ニコチン群、④アルコール+ニコチン(同時曝露)群の4群を作成した。PBSにて調整したアルコールおよびニコチンを腹腔内に1日1回投与し、35日目に精巣及び精巣上体の評価を行った。 結果として正常群に比べアルコール群およびニコチン群の精巣重量は有意に減少し(P<0.05)、同時曝露群においてはその傾向が顕著に認められた(P<0.01)。また、アルコール群、ニコチン群においては精上皮に多少の乱れが生じたものの精子形成障害は認められなかった。しかしながら、同時曝露群においては精子細胞、精子が脱落している精細管が観察されるなど精子形成障害が認められた。精巣内マクロファージ(F4/80、CD68、CD163)を調べたところ、アルコール群、同時曝露群では精細管の周囲にマクロファージが増加したが、ニコチン群ではマクロファージ浸潤は認められなかった。また、血液-精巣関門関連タンパク質(Claudin11、ZO-1、ZO-2、Occludin)を調べたところ、アルコール群では、変化が認められなかったが、ニコチン群、同時曝露群において発現の低下が認められた。以上の結果から、アルコール、ニコチンの同時曝露群においてはそれぞれの薬物の効果が相加的に影響し、単独投与の2群に比べ、同時曝露群ではより強く精巣内に影響を与えることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精子形成障害が増加している背景には、様々な環境物質や薬物の曝露が男性生殖器系に悪影響を与え、男性不妊の潜在的な原因として関与していることが広く考えられている。アルコールとニコチンは人々の生活習慣に強く密着している環境物質であり、精巣をはじめとした生殖器官に悪影響を与えることが知られているが、同時曝露による生殖機能への影響を評価した詳細な解析はなくその影響については不明のままである。今年度の結果により、同時曝露群では精巣においてアルコール、ニコチンの両薬物の影響を相加的に受けていることが示唆され、また、精巣内マクロファージが増加するなど精巣内の免疫環境にも影響を及ぼすことが示された。また、ニコチン群および同時曝露群においては、アルコールによる単独投与では観察されていない血液-精巣関門関連タンパク質の発現にも影響を与えることが見出された。今後は、どのようにアルコールおよびニコチンがそれぞれ精巣内に影響を及ぼし、それを受けて同時曝露ではどう変化しているのかを観察していくことが重要になり、同時曝露と単独曝露群における精巣内環境の変化を比較し、詳細に観察することで、同時曝露における精子形成障害の機序をより詳細に解明していく。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、同時曝露による精巣内微細環境の変化をさらに解析していく。今年度においては、精子形成のサイクルである35日目で精巣内の変化を観察したので、変化が生じる短期的なポイント(14日目)とより変化が大きくなる長期的なポイント(70日目)の観察を行う。また、アルコールやニコチン、アセトアルデヒドを代謝する代謝酵素はライディッヒ細胞や精母細胞などに多く含まれることから細胞ごとの薬物感受性、代謝による酸化ストレスの影響など細胞ごとの定性的な評価を免疫組織化学染色を用いて解析し、同時に精巣全体での発現変化をリアルタイムRT-PCRを用いて解析していく。また、精細管周囲に存在するマクロファージの動態に変化を生じていることから、ex vivo評価法を用いて脾細胞培養後、培養上清を回収し、ELISA法で、各種サイトカインを定量する。これにより全身免疫系の応答・作用機序を調査しつつ、in vivoとin vitroにおける結果の整合性についても検討する。さらに、実験的自己免疫性精巣炎(EAO)モデルを用いて精巣内の免疫学的精子形成障害の有無を解析する。このモデルマウスは、雄性生殖細胞(TGC)のみを14日間隔で2回、皮下注射を行うモデルであり、1回の皮下注射で炎症が生じる場合は抗原曝露前から精巣の免疫機構に乱れが生じている証明となる。2019年度の結果より単独投与と同時曝露したマウスに同系のTGC(1×107cells/mouse)を1回皮下注射する。40日後各群の精巣内炎症細胞浸潤と精子形成障害について、TGCを14日間隔で2回皮下注射したEAO群と比較し、またその差を分析する。免疫組織化学染色や免疫電顕、リアルタイムRT-PCRなどを用いてサイトカイン産生や生殖細胞に対する自己抗体産生を詳しく解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルコールおよびニコチンにおける同時曝露による精巣内微細環境の変化、精子形成障害の機序を調べるため、14日、35日、70日の間、腹腔内投与を連続して行うことを予定していたが、35日目の段階で大きな変化が認められたので、今年度は35日目の実験群を用いて詳細に解析した。また、あらかじめ投与量を設定していたことによってマウスの使用を予定より少なく済んだ。また、同時曝露における精巣内微細環境の変化を調べるために、ELISA法を用いて解析を行う予定であったが、リアルタイムPCRを用いて解析をすることによって使用金額を予定より抑えられたことも理由に挙げられる。 次年度は、アルコールおよびニコチンにおける同時曝露による経時的な精巣内微細環境、精子形成障害の経時的な変化(14日、70日)についても調べるため、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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