研究実績の概要 |
当初の研究課題に対する成果の概略は、前年度の報告書の通りで、2022年に国際誌(Journal of minimally invasive gynecology, IF: 4.3)に掲載された。すなわち、ラットの捻転卵巣モデルにおいて、ICGアンギオグラフィーによる血流の定量的評価が手術中に可能であること、さらに予後予測に有用であることを世界で初めて示すことができた。 2022年度は、これまでの研究により、卵巣捻転の重要なテーマであると判明した「卵巣の虚血再灌流障害」を掘り下げることを目指した。まず、その分子機構へ興味を持ち、虚血再灌流障害を起こした卵巣のバルクRNAシークエンスを計画した。その計画過程で、「虚血再灌流障害の際の、バルクRNAシークエンスのシステマティック・レビュー」において、複数の臓器に共通して、グリア細胞(アストロサイト)特有の発現遺伝子が活性化しているという記述を発見した。しかしそのレビューにおける複数の臓器とは、脳、脊髄、肝、腎、心筋であり、卵巣は含まれてはいなかった。そこで、他の臓器には存在するグリア細胞が、卵巣にも存在するはずである、と着想した。 なお、グリア細胞とは、アストロサイト、ミクログリアなどの細胞に代表される脳内の非神経細胞である。神経細胞の生存・機能発現のための脳内環境の維持・代謝的支援、血液脳関門の形成など、様々な役割を担っている。また、脳組織の虚血再灌流障害において、保護的な役割をする非常に重要な細胞である。従来、グリア細胞は脳にのみ存在すると考えられてきたが、近年では腸や心臓などの臓器でもグリア細胞が発見され、注目されている。 山梨大学・薬理学教室と共同で実験を行い、卵巣内にGFAP、S100bなど複数のグリア特異的タンパク質が陽性の細胞が存在すること、同細胞は卵巣髄質、そして卵巣皮質においては莢膜細胞の近くに存在することを発見した。
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