研究実績の概要 |
胎児発育不全(Fetal growth restriction;以下、FGR)に対するタダラフィル投与に関する臨床研究を行っている。第Ⅱ相試験において、妊娠32週未満のFGRに対して、妊娠期間の延長効果が示唆されたが、ヒト胎盤へのタダラフィルの分子学的影響は明らかではない。本研究では、ヒト胎盤へのタダラフィルの影響を検討することを目的とした。 IRB承認と患者同意の下、当院で妊娠・分娩管理を行ったFGRの単胎妊婦(FGRタダラフィル治療なし群;10例, FGRタダラフィル治療あり群;12例)の胎盤から絨毛を採取し分子学的解析を行った。また、同期間に当院で妊娠・分娩管理を行ったFGRのない単胎妊婦14例の胎盤からも絨毛を採取し、対照群とした。本研究では、胎盤の低酸素指標としてHIF-2αを免疫染色で評価した。また、胎盤のmTOR(mechanical target of rapamycin)に着目し、mTORの下流である、rpS6, elF-4EをそれぞれWestern blot法ならびにELISA法で評価した。 胎盤の低酸素指標であるHIF-2αの蛋白発現は対照群と比較し、FGRタダラフィル治療なし群では有意に増加していたが、FGRタダラフィル治療あり群では対照群と有意差は認めなかった。mTORの下流のrpS6とelF-4Eについては、いずれもFGRタダラフィル治療なし群でリン酸化蛋白発現量が対照群と比較し有意に増加した。その一方で、FGRタダラフィル治療あり群では、対照群とは有意差なく、同程度の蛋白発現量であった。 FGRに対するタダラフィル治療はヒト胎盤の酸素状態を改善した。また、栄養シグナリングのmTORについても、タダラフィル治療により変化が生じる可能性が示唆された。
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