研究課題/領域番号 |
19K18640
|
研究機関 | 地方独立行政法人静岡県立病院機構静岡県立総合病院(救急診療部、循環器病診療部、がん診療部、臨床診療部 |
研究代表者 |
堀川 直城 地方独立行政法人静岡県立病院機構静岡県立総合病院(救急診療部、循環器病診療部、がん診療部、臨床診療部, 臨床診療部, 医長 (60839140)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ベバシズマブ抵抗性 / 卵巣癌 / 腫瘍免疫 / MDSC |
研究実績の概要 |
抗VEGF抗体(ベバシズマブ)は、進行卵巣癌に対し、広く使用されるようになっているが、予後改善効果は乏しくその耐性メカニズムは明らかでない。我々はマウスを用いた先行研究において、抗VEGF抗体の治療抵抗性には、腫瘍組織に浸潤する骨髄由来免疫抑制性細胞(MDSC)が関与することを報告した。そのMDSCは、腫瘍組織から産生される炎症サイトカインであるG-CSF、GM-CSFやCXCL2などの液性因子が誘導因子として知られているが、卵巣癌の臨床において、MDSCの浸潤やそれらのサイトカインと抗VEGF抗体治療抵抗性の関連についてはこれまで報告されていない。そこで、マウス実験による抗VEGF抗体治療抵抗性ならびにMDSC誘導に関わる因子の同定ならびに、実臨床で使用されるベバシズマブ併用化学療法による効果と、腫瘍組織におけるMDSC浸潤や治療前後のサイトカイン値の変動を調べ、ベバシズマブ治療抵抗性との関連性を検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、腫瘍における免疫チェックポイント分子B7H3の発現を抑えると腫瘍内へのMDSCの遊走が減少することを見出した。そこで、B7H3抗体と抗VEGF抗体の併用療法によりMDSCによる抗腫瘍免疫逃避を改善し、抗腫瘍効果の増強が得られるのではないかと推測し、マウスモデルでの併用実験にて検証を行った。B6C3F1マウスに対してOV2944-HM1マウス卵巣がん細胞株にて皮下腫瘍モデルを作成し、腹腔内にB7H3抗体(clone MJ18)と抗VEGF抗体の併用療法の効果を検討した。抗VEGF抗体単独投与群に比べ、B7H3抗体とVEGF抗体の併用群では腫瘍サイズが有意に縮小しており、B7H3も抗VEGF抗体の治療抵抗性に関わる可能性が示唆された。また、TCGAから公開されているヒト卵巣癌RNA sequenceのデータでは、ヒトMDSCのマーカーであるCD33の発現値を抽出したところ比較すると、Immunoreactive typeで最も発現が高く、次いでmesenchymal type、differentiated type、proliferative typeの順であった。これまで、Immunoreactive typeには抗VEGF抗体治療は無効であるとの報告もあり、治療抵抗性にはCD33陽性MDSCの関与が示唆される。
|
今後の研究の推進方策 |
マウスを用いた実験や公開データベースの解析において抗VEGF抗体治療抵抗性には、MDSCやB7H3を含む腫瘍局所の免疫環境が関与していることが強く示唆された。今後は、実臨床での卵巣癌患者の血液や腹水サンプルを採取し、免疫関連マーカーの変動を検討することとする。術前化学療法として抗VEGF抗体併用化学療法を用いる治療が近年広まっており、抗VEGF抗体投与前後で同一症例から腫瘍組織サンプルや血液サンプルを採取し、各種マーカーの変動を検討することが可能となっている。抗VEGF抗体の治療奏功率と、マーカーとの相関を検討する予定である。マーカーの候補は、血清中のG-CSF、GM-CSF、CXCL2などのMDSC誘導サイトカインや、末梢血や腫瘍内MDSC数である。また、化学療法前後で得られた腫瘍組織の免疫染色を行い、CD33陽性細胞数やB7H3発現の変化と、抗VEGF抗体の治療効果との相関についても検討を行う。
|