妊娠高血圧症候群は重症度の差はあるが高頻度に認められる産科合併症である。妊娠高血圧症候群の発症には種々の要因が関わっているが、その病態は胎盤虚血による低酸素、低栄養が影響していると考えられている。胎盤虚血に伴い胎盤から母体血中に放出されている因子および母体の生態への影響について、母体血清や羊水、各細胞株を用いた研究は多くなされているが、胎盤絨毛組織自体についての評価は少ない。この研究はヒト胎盤絨毛を構成する栄養膜細胞を用いて種々の手法により作成した胎盤虚血モデルにおいて代謝産物の網羅的解析を行う。さらに虚血に陥った栄養膜細胞ではどのような代謝経路の変化が起こっているのかを明らかにすることで病態の更なる解明を目的としている。 虚血に陥った胎盤絨毛組織では低酸素、低栄養というストレスにより細胞の老化が起こっていると推測し、まず合併症のないヒト胎盤絨毛組織より分離・培養した合胞体性栄養膜細胞に低酸素環境を用いて酸化ストレスを負荷した。ウエスタンブロット法にて低酸素誘導性因子hypoxia-inducible factor(HIF)1αおよび低酸素により発現誘導されるN-myc downstream-regulated gene 1(NDRG1)の出現を確認し、低酸素負荷がかかっていることを確認した。低酸素環境下で栄養膜細胞を培養し、低酸素負荷時間ごとに細胞を採取し、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて一次代謝産物の測定を行った。測定結果について、多変量解析を行い、代謝経路の変化について解析している。 また、Sw71(不死化ヒト絨毛細胞株)を用いて同様の検討を行い、結果について、2023年5月に日本産婦人科学会学術集会で報告する予定である。
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