研究課題/領域番号 |
19K18649
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
近藤 愛 (武下愛) 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 博士研究員 (50733557)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 胎盤 / 補体 / 流産 |
研究実績の概要 |
妊娠中の母体免疫は厳密に制御されており、胎児は母体内で成長し出産に至ることができる。しかし、何らかの理由で母体や胎盤で免疫機構が過剰に活性化すると、流産となる。これまでの研究により、我々は補体第二経路活性化因子が流産の誘因となることを明らかにした(Takeshita et al., 2014)。本研究では、補体第二経路抑制機能を持ち、さらに胎盤での遺伝子発現が高いことが知られているC1q/TNF-related protein 6(CTRP6; gene symbol C1qtnf6)について、胎盤内における発現分布や機能を解析し、さらに流産予防薬としての可能性を探ることを目的としている。 (A)胎盤迷路部におけるCTRP6の有無が胎盤環境や胎児発育に与える影響を明らかにするため、C1qtnf6のヘテロ欠損マウス雌雄を交配し、妊娠14日目に胎盤および胎児を採取した。胎盤でのC1qtnf6遺伝子発現量が胎児遺伝型と対応していることは昨年度に明らかにした。本年度は、胎児重量および胎盤重量を測定し、胎盤内における免疫因子の遺伝子発現変化を解析した。胎児重量は、ホモ欠損型が野生型と比較して減少していることが分かった。しかし、胎盤重量や胎盤内における補体C3、Th1・Th2サイトカイン発現は胎児遺伝型の違いによる差はなかった。 (B)CTRP6流産予防薬としての可能性を探るため、妊娠初期の流産モデルマウスにCTRP6を投与し、流産率および胎児重量を測定した。昨年度は流産モデルマウスの胎盤内におけるCTRP6発現の経時的変化を明らかにした。本年度は自然流産モデルマウスの妊娠4日目および6日目にリコンビナントCTRP6を投与し、流産率や胎盤・胎児重量を測定した。PBS投与群と比較し、CTRP6投与群では妊娠14日目の流産率が低下傾向を示し、胎児重量の有意な増加を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、研究活動の自粛要請が出された。そのため、本年度行う予定であった解析が遅れている。 また、(C57BL/6 x 129/Sv)F1のヘテロ遺伝子欠損マウス雌雄の交配では産子の遺伝型がメンデルの法則に従わないとの報告から(Murayama et al., 2016)、本研究で使用したC57BL/6バックグラウンドのヘテロ遺伝子欠損マウス雌雄の交配でもホモ遺伝型の産子が少なくなると予想していた。さらに、補体抑制作用をもつCTRP6欠失により胎盤内の補体や免疫機構が活性化していることを期待していた。しかし本年度までの研究結果では、遺伝型別の産子数はメンデルの法則に従っており、胎盤内の免疫因子の発現も有意な差はなかった。この点において、本研究は予期していたことから外れている。一方、胎児重量はホモ遺伝型で減少を示した。遺伝子欠損マウスの出生後4週齢および8週齢では、産子の体重に差が認められなかったことから、胎盤内のCTRP6発現量が胎児重量に影響を与える可能性が示された。この点は大きな収穫であった。 以上、研究結果については得られたこともあったが、当初の予定より解析が遅れているため、総じて、本研究課題はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子改変マウスを用いた実験ではC1qtnf6遺伝子欠損マウスの胎児重量が減少、リコンビナントタンパク投与実験ではCTRP6投与群で胎児重量が増加した。しかし本年度の生化学的解析の結果からは、その理由を明らかにすることは出来なかった。そこで次年度はCTRP6の欠損もしくは投与により胎児重量が変化する理由を検討する。 胎児重量変化の原因として、胎児への過剰な栄養供給や供給不足が考えられる。遺伝子改変マウスを用いた実験では、ヘテロ遺伝型の親から生まれた産子の体重を測定している。そのため、母体の栄養状態は胎児重量の変化とは関係しない。つまり胎盤局所での栄養状態や胎児への栄養供給量の違いが胎児重量に影響を与えていると考えられる。胎児への栄養供給量は、胎盤への血流量と胎盤内の糖や脂質を輸送するトランスポーターの発現に影響を受ける。そのため、次年度は胎盤内のらせん動脈の太さや、糖脂質輸送体の発現変化を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス禍により、研究活動の規模を縮小した時期があったり、学会がオンラインとなったりしたことで、予定よりも使用額が少なくなった。本年度予定していた解析を次年度に行う予定であるが、迅速に実験を進めるための試薬や器具・機器の購入に、次年度使用額を利用する。
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