本研究では妊娠中の母体血中ケトン体が母児に及ぼす影響の解明を目的とする。ケトン体は脂肪の分解により生成され、グルコースと並び心臓と脳の主要な栄養源である。近年、一般成人における糖質制限食(ケトン産生食)に関連して研究が進み、ケトン体が神経保護作用や抑うつという有用な効果を持つことが明らかにされた。しかし、妊娠中の糖質制限食が母体や胎児の発育へ与える影響については、危険性も示唆されてはいるが、基本的な臨床データが十分でないのが現状である。本研究では、統計解析が可能な集団サイズで、母体の血中ケトン体濃度の妊娠・出産にともなう変動を測定し、新生児の頭の大きさ、並びに産後うつ病との相関関係を定量的に明らかにする。もって喫緊の課題である母児の健康保健へつなげる。 新型コロナウイルス感染症のため研究に若干の遅れが生じたが、現在解析に必要な研究参加者のエントリーはすべて終了し、妊娠中のケトン体の変化と分娩や申請時に与える影響については解析して論文化を進めている。妊娠中は妊娠初期の悪阻の時期に血中のケトン体が最も上昇すると考えられていたが、妊娠中期、後期にかけて上昇することがわかってきた。現在、妊娠中のケトン体濃度が新生児の体重や分娩時期とどのように関係するのかを検証している。 またケトン体と産後うつ病の関係についても2021年8月に必要な情報収集と検体収集が終了する予定である。神経保護作用をもつケトン体が、産後うつ病の発症を予防しているのではないかという仮説の検証が秋から始められる予定だ。
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