研究実績の概要 |
卵巣癌の臨床上の問題点は、再発時に化学療法に対して耐性を示し、治療困難となることである。がん細胞の薬剤抵抗性機構の一つに抗癌剤によって誘導される活性酸素(ROS)を抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)が抑制する機構(レドックス制御)がある。スルファサラジン(sulfasalazine; SAS)は潰瘍性大腸炎や関節リウマチの治療薬として使用されている既存薬であり、GSH産生阻害作用を持つ。本研究では、SASが卵巣癌の薬剤感受性にどのような影響を与えるか、さらにその細胞死誘導機序がアポトーシスであるのかフェロトーシスであるのかを検討することを目的とする。 本年度は10種類の卵巣癌細胞株(TOV21G, A2780, RMG-1, A2780CP, HAC2, ES2, SKOV3ip1, OVCAR3, SKOV3, Caov3)を用いて実験を行った。卵巣癌細胞株におけるcisplatin、paclitaxelに対する薬剤感受性はIC50を算出し検討したが、薬剤感受性とGSH産生量に関連を認めなかった。次にSASとcisplatinまたはpaclitaxelをそれぞれ単剤または併用投与し、細胞増殖抑制作用についてMTS assayで検討したところ、SASとcisplatinの併用で細胞増殖抑制効果がそれぞれの単剤投与に比較して増強したのはES2細胞のみであった。一方、SASとpaclitaxelの併用ではすべての細胞株で細胞増殖抑制効果が増強した。ES2、RMG-1、SKOV3におけるSASとpaclitaxelによる細胞死誘導機構を検討したところ、すべての細胞株でアポトーシスが誘導されていたが、フェロトーシスが誘導されたのはES2のみであった。今後は実臨床で薬剤耐性が問題である明細胞癌細胞株に限定し、SASとpaclitaxelの併用効果について研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
卵巣癌細胞株におけるSASとpaclitaxelの併用による細胞死誘導機構は主としてアポトーシスである可能性が高い。今後は実臨床で薬剤耐性が問題となっている明細胞癌細胞株(TOV21G, RMG-1, HAC2, ES2)おいてSASがpaclitaxelによる抗腫瘍効果を増強する機序について検討を行う。SASはGSH阻害作用とROS産生の増強作用があるので、SASまたはpaclitaxel単剤または2剤併用時のGSHとROSの産生量について検討する。さらにin vivoでの検討として、マウスに腫瘍細胞を接種し、①vehicle(PBS)、②paclitaxel、③SAS、④paclitaxel+SASを4週間腹腔内投与する。その後、炭酸ガスにて安楽死させ、腹水量及び腫瘍の大きさを計測し、上記①-④群で抗腫瘍効果を比較検討する。また上記と同様の薬剤投与後腫瘍摘出は行わずにマウスの観察を続け、Kaplan-Meier法で生存曲線を算出する。また、レドックス制御機構と臨床病理学的な関連の有無を明らかにするため、患者検体におけるGSH産生関連蛋白や遺伝子の発現解析を行う予定である。
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