研究課題/領域番号 |
19K18663
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小林 達也 千葉大学, 医学部附属病院, 技術職員 (00645640)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乳汁分泌不全 / プロラクチン / プロラクチン受容体 / 遺伝子多型 |
研究実績の概要 |
申請者らは、原発性高プロラクチン血症と産後乳汁分泌不全を合併する患者の遺伝子解析を行い、プロラクチン受容体(PRLR)の新規遺伝子多型による機能欠損症を同定し報告した。哺乳類はその名の通り、乳を合成し、子を育てる動物である。ヒト以外の動物では、家畜・愛玩動物などを除けば、乳汁分泌不全個体の子供は栄養失調のため死亡してしまう。一方、ヒトでは、乳汁分泌不全の場合でも、人工乳での栄養が可能である。言い換えると、ヒトは、乳汁分泌量の差が許容された動物であると考えられる。PRLR機能欠損症例では産後の乳汁分泌が欠如、ヘテロ機能欠損症例では乳汁分泌が数ヶ月で止まってしまい、人工乳に切り替えたというエピソードを持っていた。これらの知見より、乳汁の分泌・合成が生殖活動、健康状態とは別の独立した機能であり、様々な遺伝子の多型により遺伝的体質によって乳汁の分泌・合成が規定され、授乳が困難な人たちが存在するのではないかと考えるに至った。本研究では母乳が出ない・出にくいことは、生まれ持った体質であるという概念を確立させ、 乳汁分泌不全による産後ストレスを減らすことを目的に(1)乳汁分泌量に関連があると考えられる遺伝子多型のスクリーニング、 (2) 乳汁分泌不全患者・対照患者をリクルートし、乳汁不全が遺伝子多型で説明できるかの検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳汁分泌不全症例のPRLR解析 乳汁分泌不全症例のPRLR遺伝子をダイレクトシーケンスにより解析した。 2019年度は年間12名の乳汁分泌不全症例のPRLR解析を行い、I100Vのcommon変異症例を1名同定した。I100Vの受容体機能解析のため、PRLRの下流シグナルであるSTAT5のリン酸化を検出するLuciferase assayによりI100Vの受容体解析を行ったが、wild typeと比較して受容体能の変化は認められず、乳汁分泌不全との関連は否定的であった。また、2019年度は症例数の増加を目指し、関連病院への情報提供を積極的に行った。
日本人PRLR遺伝子の多型解析 国内最大級のエクソーム公開データベースである東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)のjMorp(version:4.7KJPN)を利用して、日本人約4700人のゲノムデータからPRLRのミスセンスSNPsを抽出した。その結果、日本人ではデータベース上ではPRLR遺伝子に27カ所のnon-synomous変異が存在した。また、申請者らが過去に報告した機能欠失型型であるP269L(rs754974807)もGnomADのMAF(0.00002132)と比較して日本人に比較的多い多型であることが明らかとなった(MAF=0.0003)。次にこれらの27カ所のPRLR多型が受容体能に影響を及ぼすかどうかをタンパク質機能予測ツールであるPolyPhen-2を用いて解析した。その結果、27カ所中14カ所のSNPsがタンパク機能に影響すると予測され、MAFの合計は0.0041であった。現在これらの多型の機能解析をin vitroで行っている。
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今後の研究の推進方策 |
乳汁分泌不全症例のリクルートとPRLR解析と日本人PRLR遺伝子多型の解析 自施設および関連病院に呼びかけを行い、継続して乳汁分泌不全症例の血液サンプルの収集とPRLR遺伝子解析を行う予定である。また、2019年度に作成したPRLR多型プラスミドを使用し、日本人のPRLRバリアントのデータベースを作成し、論文報告を目指す。
GWAS解析による乳汁分泌不全関連SNPsの同定 母乳分泌不全症例の遺伝的背景をより多くのケースで解析し、PRLR以外の遺伝子にも解析範囲をひろげて検討するためにJ-MICC study(日本他施設共同コーホート研究)の研究分担者とミーティングを行い、産後の哺乳を行っていない症例に特徴的なlocusの抽出を行う予定である。現在、preliminary dateの抽出と倫理委員会の申請に向けた準備を行っているが、コロナウィルスによる活動自粛の影響もあり、予定よりやや遅れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数が小額余ってしまった。次年度の消耗品購入に当てる。
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