研究実績の概要 |
不育症の発症頻度は妊娠女性の約5%と決して稀ではない。不育症の25%は原因不明であり、未だ確立されてた治療がない。近年加速化する少子高齢化社会において、不育症病態を解明する意義は非常に大きい。本研究では、「酸化ストレス等を契機として脱落膜マクロファージのインフラマソームの過剰な活性化が子宮内において炎症性サイトカインを誘導し絨毛浸潤抑制による流産を引き起こす」との仮説をもとに、ヒト臨床検体を用いて原因不明不育症の病態解明及び妊娠維持メカニズムの分子的解明を目的として検討を行った。 臨床検体(流産手術時に得られた脱落膜及び非妊娠時の血漿)におけるインフラマソーム関連蛋白、酸化ストレス度の指標となるd-ROMs及び抗酸化力の指標であるBAPをフリーラジカル解析装置で測定した。抗リン脂質抗体症候群(Antiphospoholipid syndrome, APS)合併患者で血漿中のd-ROMs、BAPが共に有意に上昇しており、既報告とも合致していた。APS患者で流産が引き起こされる分子機序については諸説あるが、酸化ストレスも関与している可能性が示唆された。更なる流産機序の解明が必要である。続いてインフラマソーム関連蛋白であるNLRP3及び脱落膜マクロファージに発現するCD14について組織中の発現を確認するため流産脱落膜組織を用いて蛍光多重組織染色を行った。脱落膜組織、絨毛組織共に抗NLRP3抗体、抗CD14抗体の染色性を認め、両者の共発現も観察された。更に詳細な機序を解明するため、インフラマソームに活性化されるIL-33と、絨毛浸潤に関わるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)とそのインヒビターであるTIMPsの発現量についても検討を行い、胎児染色体正常流産では、IL-33とMMP-9の発現量に負の相関を認めるという知見を得た。
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