脱落膜NK細胞が妊娠維持機構に関わっていることは知られているが、母体末梢血NK細胞が妊娠維持機構に関わっているかどうかは分かってない。母体末梢血NK細胞が着床や妊娠維持機構に関わっているという仮説を立て、妊娠前と妊娠中の女性から末梢血サンプル採取を開始した。これまでの実験結果では、卵胞期から妊娠後期にかけてNK細胞数の有意な変動を認めた。そして、卵胞期、黄体期、妊娠初期におけるNK細胞の遺伝子発現マイクロアレイを、同一人物から採取したサンプルを用いて施行した。その結果、各比較において多数の発現変動を認めたため、母体末梢血NK細胞が着床や妊娠維持機構に関わっている可能性が示唆された。とくに卵胞期-黄体期ではIL-6、CDK9、黄体期-妊娠初期ではIL-10、MMP9、DUSP13、卵胞期-妊娠初期ではIL-18、MMP9、DUSP13の遺伝子発現の変動を認めた。それらの遺伝子について、RT-PCRによりそれらの遺伝子の発現変動を確認したところ、IL-6以外で同様の実験結果が得られた。IL-6についてはマイクロアレイの結果を再解析したところ、検出されたシグナル値が非常に低かったことがわかり、それゆえにRT-PCRで発現変動が確認できなかった、ということが考えられる。microRNAにおいては、517a、512-3pに対してRT-PCRで評価した。 また以前から血小板CD36と妊娠高血圧症候群について関連があるという仮説を立て検討を少しずつ行ってきた。妊娠初期から後期にかけて血小板CD36の発現が有意に低下していることを示した。妊娠前と妊娠中の血小板CD36の発現低下により、血中のLDLが異常に上昇し、それにより血管内皮炎症の増悪が生じて妊娠高血圧症候群を発症する、という新しい病態の仮説をたてた。とくに遅発性の妊娠高血圧症候群についてこの仮説が当てはまる可能性があると考えている。
|