本研究では、卵巣機能不全に関連する卵巣疾患についてミュラー管抑制因子(MIS)と副腎皮質ホルモンとの相互作用の観点から観察を行う計画だったが、過去2年間は新型コロナウイルス感染症の流行の煽りをうけ、実験計画の大幅な遅延が生じていた。本年度は最終年度として、in vitro実験で期待した結果が得られていないことから、当初予定していた実験動物を用いた研究などの計画は中止とし、昨年度に続きin vitro実験を中心に実施した。昨年度は卵巣顆粒膜細胞の腫瘍細胞株を用いて実験を行ったが、特に有意な結果が得られなかった。そこで今年度は思春期前後で予後が異なる胚細胞腫瘍の細胞株を用いて、思春期前後での血中濃度に変化が見られるデヒドロエピアンドロステロンの影響を通してミュラー管抑制因子に関連する遺伝子の変化を解析し、その相互作用についての検討を行うことにした。 胚細胞腫瘍の細胞株として入手可能なBeWoおよびNEC8を用いて、培養条件の調整、デヒドロエピアンドロステロンの投薬条件の調整などを経て、in vitro実験をすすめた。各条件で培養した細胞から核酸を抽出してmRNAシークエンスを実施したところ、デヒドロエピアンドロステロンの投薬によって遺伝子Aを含む複数の候補遺伝子について、投薬前後で発現に有意な変化が見られた。この遺伝子Aは、以前研究代表者が別の実験系でMISを投与した群とそうでない群で大きな発現の変化がみられたことのある遺伝子であったため、この遺伝子AがMISと副腎皮質ホルモンの相互作用の観点で関連のある遺伝子である可能性が考えられた。
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