本研究は、免疫の研究に適したシンジェニックな卵巣明細胞癌(Ovarian clear cell carcinoma; OCCC)のマウスモデルを作成し、さらにその免疫応答について明らかにすることで、ヒトのOCCCに対する免疫療法の研究へ発展させることを目的として実施した。 2019度から2020年度にかけては、戻し交配(Backcross)の手法を用いて、Arid1aflox/flox;(Gt)Rosa26Pik3ca*H1047Rの遺伝子共変異を近交系マウスであるC57BL/6マウスに組み込むという作業を中心に行った。第8世代の遺伝子共変異マウスの卵巣表層上皮にCreリコンビナーゼ発現アデノウイルスを投与し、安定した発がんを確立した。また、HE染色および免疫組織化学染色法により、OCCCと同様の特徴を有し、IL-6産生腫瘍であることが確認できた。発生したがんについて、複数ラインの細胞株として保存し、さらに、樹立したマウスを京都大学および千葉県がんセンターの研究者へ提供した。 2021年度は、このマウスに抗体薬の投与を行い、生存延長効果について調べるとともに、腫瘍浸潤T細胞についてフローサイトメトリーで発現解析を行った。抗IL-6抗体および抗PD-L1抗体の単独の投与では有意な生存の延長を認めたが、一方で、併用療法では相加効果を認めないことを確認した。また、抗IL-6抗体を投与したマウスでは、コントロールマウスと比較して腫瘍局所にTregが誘導されていることがわかった。さらにIL-17A投与により、局所の腫瘍免疫が活性化することがわかった。 なお、本研究の内容については、第63回日本婦人科腫瘍学会学術講演会(口演、高得点演題)、第80回日本癌学会学術総会(口演)で発表を行った。論文化に向けて準備を進めている。
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