研究実績の概要 |
【背景】習慣流産の約25%の症例では種々の精査を行っても未だ原因が不明のままである。主にDNAメチル化によって制御されるエピジェネティックな転写調節機構は、様々な妊娠ステージにおける胚と胎児の発達に重要なメカニズムであることから、習慣流産をエピジェネティクスな要因で説明できるかを検証するために、網羅的DNAメチル化解析を行った。また、習慣流産が母体側もしくは胎児(胚)側の要因かどうかも検証するため、絨毛と脱落膜を同時に解析した。 【方法】習慣流産(RM)患者(n=5)の子宮内容除去術施行時に絨毛と脱落膜を採取し、人工妊娠中絶(AA)患者(n=5)をコントロールとして、網羅的DNAメチル化解析を行った。同定されたRM群とAA群でメチル化の異なる遺伝子を、多数検体(n=19)においてパイロシークエンス法で検証し、免疫染色で蛋白質の発現を解析した。 【結果】RM群とAA群において、絨毛では9073遺伝子、脱落膜では4412遺伝子のDNAメチル化に差が存在し、階層型クラスター解析では、脱落膜ではなく絨毛においてDNAメチル化プロファイルが両群で異なっていた。パイロシークエンス解析により、SPATS2L, MAST4, EXOC6Bのエンハンサー領域のメチル化がRM群で亢進していた。免疫染色では、RM群の絨毛の細胞性栄養膜細胞において、SPATS2Lの発現が著明に低下していた。 【結論】脱落膜ではなく絨毛において、RM群とAA群でメチル化プロファイルが異なることが明らかになった。DNAメチル化の変化が、胎児(胚)の発育に影響を及ぼし、習慣流産を説明する一つの因子となりうる。
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