研究課題
バソヒビン2 (VASH2)はがん細胞特異的な血管新生促進因子であり、血管新生阻害療法にむけた基礎研究が進んでいる。VASH2は微小管重合に寄与するチューブリン脱チロシン化作用(tubulin carboxypeptidase; TCP活性)も有することが近年報告された。パクリタキセル(PTX)は微小管脱重合阻害剤であり、VASH2と何らかの相互作用を示す可能性がある。卵巣がん細胞株についてVASH2ノックアウト株を樹立し、PTXに対する薬剤感受性を検討した。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術によりVASH2をノックアウトした卵巣がん細胞株(SKOV-3、SHIN-3)を樹立した。VASH2ノックアウトは2次元培養における細胞の倍加時間に影響を与えず、3次元培養の細胞集塊径にも差を認めなかった。細胞内のチューブリン脱チロシン化の状態をウエスタンブロッティング法で確認したところ、VASH2ノックアウト株では、PTX曝露による脱チロシン化チューブリン発現の亢進が抑制された。次いで、WST-1アッセイで抗がん剤に対する薬剤感受性を評価したところ、VASH2ノックアウト株ではPTX感受性がコントロールに比べて有意に増強した。一方でシスプラチンについては薬剤感受性に差を認めなかった。さらに、VASH2ノックアウト株では細胞周期のM期中期のマーカーであるCyclin B1発現が増加しており、細胞周期がM期中期で停止している細胞の割合が増加してPTXに対する薬剤感受性が増強したと考えられた。VASH2を標的とする婦人科がん治療戦略では、既知の血管新生阻害のみならずチューブリン脱チロシン化酵素活性に着目することで、抗がん剤感受性増強作用など、より多角的な視点から新たな分子標的治療の確立が期待できる。
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