本研究の目的はステロイドホルモン産生細胞の恒常性維持機構におけるミトコンドリア蛋白MGARPの働きを明らかにすることである。今年度の成果も含め、これまで複数のステロイドホルモン産生細胞株を用いて検討を進めてきたが、MGARPの局在やHIF-1による調節など共通する部分も認められたが、MGARP基礎発現量には細胞株によりかなりの差が認められた。MGARP発現抑制の細胞生存性やアポトーシスへの影響は、MTS assay、Annexin Vフローサイト解析、ミトコンドリア膜電位測定などで評価したが、MGARP基礎発現量が比較的多かったNCI-H295A細胞においては、MGARP発現抑制により72時間後には細胞生存性を示すMTS吸光度が20%減少し、ミトコンドリア膜電位が低下し、アポトーシスを示すAnnexin V陽性細胞数が約3倍増加した。一方、MGARP基礎発現量がNCI-H295A細胞の約1/10である卵巣顆粒膜細胞株のKGNでは、MGARP発現抑制は明らかに確認できるものの、これら評価法において有意な変化は得られなかった。これまでの結果より、MGARPはミトコンドリアの恒常性維持には関与すると考えられるが、細胞全体の恒常性維持(生存やアポトーシス抑制)への寄与については細胞により異なることが示唆された。この差異が細胞の由来臓器の違いによるのか、それともMGARP基礎発現量の違いによるのかについては今後さらに検討を要すると考えられた。
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