研究課題/領域番号 |
19K18709
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
柏木 寛史 東海大学, 医学部, 助教 (10710460)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 妊娠関連タンパク質 / Pregnancy zone protein / 自己抗体 / 抗胎児抗体 / 流産 / 妊娠免疫 |
研究実績の概要 |
本研究は、実験1:PZPの血漿動態解析、実験2:PZPの機能解析の2本柱で計画した。 実験1に関して、東海大学産婦人科産科外来を受診する妊婦のうち、同意を得られた妊婦から検体採取を行った。自己抗体・抗胎児抗体陽性の妊婦血漿と正常妊婦の血漿をそれぞれ採取し、PZP、炎症性サイトカインの血中濃度等の比較検討を進めており、自己抗体陽性妊婦においてPZPが高値を示す傾向を認めた。また分娩時の胎盤におけるPZPの発現に関しても比較実験データを集めている。 実験2に関して、PZPのベイト領域における遺伝子変異の発生頻度をNCBIのSNP GeneViewツールを用いて解析したところ、ベイト領域にSNPが発生しやすいことが示唆された。また、ホモロジーモデリングによるPZPの3次構造解析を行ったところ、PZPのプロテアーゼインヒビターとしての機能の特異性が示唆されるものであった。これらの結果は、Human PZP and common marmoset A2ML1 as pregnancy related proteins. Scientific Reports. Mar 20;10(1):5088. doi: 10.1038/s41598-020-61714-8. 2020において論文発表を行った。 研究協力者の実験動物中央研究所において、ヒトPZPをCAGをプロモーターとして遺伝子導入したNOGマウスを作成し、全身でのPZPの発現を確認した。さらに、PZP発現NOGマウスではPZP非発現NOGマウスに比較して肺、肝臓でリンパ球浸潤と組織破壊が抑制傾向にあることがわかった。これはPZPのプロテアーゼインヒビターとしての機能が組織への炎症性の細胞の浸潤を抑制することによるものであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己抗体・抗胎児抗体陽性の妊婦血漿と正常妊婦の血漿をそれぞれ10症例ずつ採取することを目標として検体採取を進めているが、すでに異常妊娠5例、正常妊娠10例を採取している。また、胎盤組織の採取も行なっている。 PZPの構造解析に関しては、in silicoの構造解析を2019年度に進めており、ベイト領域のSNP発生頻度が高いことから、遺伝子変異の存在する可能性が高いことが示唆されてきた。今後は症例を蓄積し、実際の症例におけるベイト領域の遺伝子変異の検索を進める。 2019年度は、PZPのin vivoでの機能解析を可能とするため、最初に時間がかかる全身に高濃度でPZPを発現するPZPトランスジェニック(PZP Tg)NOGマウスの作成に着手した。これらのマウスおよびLittermatesにヒト末梢血単核球(PBMC)の移植実験を行ない、フローサイトメトリーおよび免疫組織化学染色によりこれらのマウスに生着したヒト白血球の経時的な解析を行った。その結果、リンパ球の割合に大きな変化はみられなかったが、免疫組織染色の結果から、PZPを発現すると、ヒトPBMCを移植したのちの肺胞組織へのリンパ球の浸潤は遅延し、気管支周辺に集積すること、肝実質へのリンパ球浸潤も遅れることを明らかにした。以上の結果、PZPの発現は、異種移植片に対する拒絶反応に関しては抑制する傾向があることが示された。また、これらのPZP Tg-NOGマウス(♂)をNOGマウス(♀)と交配し、妊娠率・出生率を確認した。その結果、数例の出産例はあるものの、妊娠が極めて起こりにくい傾向が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
検体採取に関しては、2020年度も現在の計画のもと研究を継続する。血漿動態解析については、ELISAおよびrealtime-PCRは検体数が集まってから纏めて行う一方で、フローサイトメトリーについては採取後速やかに行うことを継続する。 PZP機能解析に関しては、上記のように過剰発現マウスでの出生率が低い傾向があることから、2020年度において、PZPの過剰発現が妊娠率に影響を及ぼすのかに関して妊娠実績データをさらに得て、検討する必要があると考えている。また、ベイト領域に変異のあるPZPのTgマウスを作成し、上記と同様にxeno移植の実験を行う予定である。現在所有するPZPトランスジェニックマウスに加えて、PZPノックダウンマウスまたはPZPノックアウトマウスを新たに作成し、PZP影響下での妊娠率の変化および各種マウス組織の変化を検討する必要があると考えている。 現在、in vivoの実験を先行して行なっているため、in vitroの実験を行なっていない。これについては2020年度に集中的に行い、in vivoの実験系との整合性を確認する。まずは遺伝子コンストラクトを作製し、それをトランスフェクトしたHEK293あるいはHela細胞を培養してタンパク質を分泌させ、各種プロテアーゼ(セリンプロテアーゼ等)と反応させる。また、これらの培養上清と各種腫瘍細胞株を用いたtranswell migration assayを行う。プロテアーゼをゼラチナーゼB含有ゲル上で電気泳動し、タンパク質分解活性を測定する。これにより活性阻害を定量する。次に、プロテアーゼ結合部位を変異させたcDNAを遺伝子導入した細胞について同様の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に計画していたELISAに関しては、COVID-19の影響により実験に必要なキットが年度内に納入されなかったため、実験を行うことができなかった。また、東海大学研究支援センターに依頼して行う予定であったReal-time PCRおよび次世代シークエンスに関しても、COVID-19の影響によりセンターの業務が停止されたため、研究が進められなかった。そのため、806,413円の未使用額が発生した。2020年度においては、ELISAキットの購入に約500,000円、研究支援センターの使用料として約300,000万円を繰り越し、2019年度内に完了できなかった実験を追加して行うことを計画している。
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