研究課題/領域番号 |
19K18711
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
村川 裕子 日本医科大学, 医学部, 非常勤講師 (80465286)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | キスペプチン / ラット |
研究実績の概要 |
神経ペプチドであるkisspeptinは主に視床下部に発現しておりGnRH/LHの放出を介して雌では卵胞発育や排卵に関わっている。kisspeptinおよびkisspeptin受容体は卵巣にも発現しているが、その機能についてはほとんど明らかとなっていない。生殖医療においてkisspeptinはhCGなどと同様に排卵誘起製剤としての働きが期待されているが、卵巣への影響は明らかとなっていないため、本研究ではkisspeptin投与による過排卵処置後の卵巣への影響を明らかにすることを目的とした。はじめに卵巣のkisspeptinの発現の変化を可視化するため組織化学的手法の確立を試みた。脳サンプルの免疫染色に使用していた2種類の抗kisspeptin抗体を用いて、1次抗体の濃度、抗体の反応時間と温度、賦活化の有無、賦活化のpHについて検討を行った。また各性周期の卵巣とhCGによる過排卵処理した動物の卵巣を用いて、過去の報告と発現の変化が一致するのかを確認した。免疫染色について様々な条件で検討を行ったが、卵巣で明らかな染色像は得られなかった。賦活化のpHを変えることで、陽性細胞と思われる像は確認されたが、過去の報告から多く発現していると思われる時期と免疫染色による発現変化が一致しなかった。卵巣に発現するエストロゲン受容体β(ERβ)の陽性反応は得られた。kisspeptinの発現が多いと思われるサンプルで明らかな染色像が免疫染色では得られなかったことから、in situ hybridizationを用いてmRNAの染色を行った。脳サンプルは染まるが、卵巣では明らかなシグナルを検出できなかった。これまで、免疫染色・in situ hybridization法を用いて検討をおこなってきたが、過去の論文で報告されているような染色像は得られなかった。これらの結果から、卵巣のkisspeptinの発現量は脳と比べて、かなり低い可能性が考えられた。今後は、染色の条件検討を行うとともに、PCRなどを用いた遺伝子発現解析についても検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
卵巣のkisspeptinの発現を組織細胞化学的手法により検出するための方法を検討してきたが、明らかな染色像が得られていない。これまで行った方法については、脳組織で染まる2種類の抗kisspeptin抗体を使用し、1次抗体の濃度、抗体の反応時間と温度、賦活化の有無、賦活化のpHについて検討を行った。また、パラフィン包埋と凍結切片の両方についても検討を行った。各性周期の卵巣とhCGによる過排卵処理した動物の卵巣を用いて、過去の報告と発現の変化が一致するのかを確認した。賦活化のpHを変えることで、シグナルらしきものは検出されたが、陽性細胞や発現変化が過去の報告と一致しなかった。またkisspeptinの他に、脳と卵巣に発現が報告されているneurokinin B、dynorphin Aの免疫染色についても脳組織で染まる抗体を用いて検討を行ったが、卵巣で明らかな組織像が得られなかった。卵巣で多く発現するエストロゲン受容体の免疫染色は検出された。免疫染色の他にin situ hybridization (ISH)によるmRNAの染色も試みたが、kisspeptinを発現していると報告された細胞において陽性反応が得られなかった。卵巣を固定した後に切片を作成したサンプルと未固定のまま冷凍保存して、切片作成後に固定したサンプルでISHを検討したが、どちらとも明らかな染色像は得られなかった。卵巣で発現が確認されているdynorphin AのmRNAの染色も行ったが、明らかな染色像は得られなかった。脳切片ではkisspeptinとdynorphin AのmRNAの発現細胞はISHにより確認された。kisspeptin、neurokinin B、dynorphin Aの免疫染色とISHについて、これまで脳切片では問題なく検出してきたが、卵巣では全く検出されない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
卵巣のkisspeptinの検出に組織細胞化学的手法を用いて検討を行ってきたが明らかな染色像は得られていないため、引き続き条件検討を行う予定である。卵巣で発現が報告されているneurokinin BのmRNAのin situ hybridization (ISH) 解析や、ステロイドホルモン合成酵素、血管新生関連因子の免疫染色について組織化学的手法により検討する(1次抗体の濃度と反応時間および反応温度、賦活化の有無、賦活化の最適pH)。また、脳組織では問題なく検出されることから、卵巣のkisspeptinの発現量は極めて低い可能性が考えられたため、PCRなどの遺伝子発現解析についても検討していく予定である。組織細胞化学的手法の検討をおこないながら、リアルタイムPCRなどの分子生物学的手法を確立した後、実験動物にkisspeptinを投与し、卵巣の各遺伝子の発現変化について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
産休・育休を挟んだ影響と、実験が予定通り進まなかったため購入する物品が生じなかった結果、次年度使用額が生じました。
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