妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)は高血圧と蛋白尿を呈し、胎児発育不全や常位胎盤早期剥離等の重篤な合併症を来す予後不良の疾患である。しかし、根本的治療法は未だ存在せず、その発症機序も不明な点が多い。当研究所の寒川らが発見した新規生理活性ペプチドであるアドレノメデュリン(AM)は強力な降圧作用を有するが、ヒトPE患者では血中AM濃度が低値であることが報告されている。このことから、本申請提案者はPE病態へのAMの関与と、PE治療薬としてのAMの応用を独自に着想した。 2019年度、2020年度はAMがPEの病態形成に関与しているとの新たな仮説のもと、血中AM濃度が野生型の約半分であるAM遺伝子ヘテロ欠失マウスを用いて妊娠時の表現型を解析し、妊娠時におけるAMの生理的意義を解明することを本研究の目的とした。AM遺伝子ヘテロ欠失マウスにおいて、野生型メスと野生型オスを交配して野生型母獣を作製し、またヘテロ接合型メスとヘテロ接合型オスを交配してヘテロ接合型母獣を得た。AM遺伝子ヘテロ欠失マウスにおける野生型母獣 (n = 15)、ヘテロ接合型母獣 (n = 15) について、比較検討を行った。その結果、ヘテロ接合型母獣では野生型母獣と比較して有意な妊娠中の血圧上昇と胎盤虚血を認め、妊娠高血圧症候群様の所見を示した。
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